仮面ライダーW(ダブル)第二十話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第二十話「Iが止まらない/仮面ライダーの流儀」。
脚本:三条陸。監督:石田秀範。
ハードボイルド探偵を標榜しながらも周囲からはハーフボイルド(半熟)と揶揄され笑われている探偵青年の左翔太郎(桐山漣)には、誰から何と云われようとも曲げることのできない信念がある。街を愛する者を愛し、街を泣かせる者を許さないということ、そして罪を憎んで人を憎まないということ。この信念のゆえに翔太郎が取った行動は、風都警察署の若き警視でもある仮面ライダーアクセル=照井竜(木ノ本嶺浩)の眼には「甘い!」と映ったようだが、むしろそうした甘さをも備えた信念と流儀こそが翔太郎の探偵業における最も上質なハードボイルドの言動を導き出した原理に他ならないことを、これまでの物語は証明している。今まで常にそうだったし、今までのそうした歴史を一つも知らない照井竜もどうやら、今まで常にそうだったらしいことを感じ取り得たらしい。
だから彼は、事件のあと、鳴海探偵事務所に来て、そこに住んでいる新しい仲間たち三人のために珈琲を淹れたのだろう。あのまま彼も同居するのだろうか?と見えてしまう程に馴染んでいた。彼がわざわざ訪れて珈琲を淹れただけで去っていったのは、翔太郎が仲間や訪問客のために淹れている普段の珈琲が、照井竜に云わせれば、余りにも不味い代物だったから。実際、翔太郎は照井竜の淹れてくれた珈琲を飲んで、その余りの美味に驚いて叫んでいた。もっと凄かったのは、フィリップ(菅田将暉)と鳴海亜樹子(山本ひかる)が照井竜の珈琲の余りの美味に衝撃を受けて、まるで時間が止まったか、凍りついたかのように、動くことさえできなくなってしまっていたところ。あんなにもショックを受けるとは、照井竜の珈琲はどれだけ美味だったのだろうか?と興味を抱く反面、むしろそれ以上に、翔太郎の珈琲はどれだけ不味いのか?そしてフィリップも亜樹子もそんな不味い珈琲にどれだけ馴れ親しんでしまっていたのか?と心配してしまう。照井竜が翔太郎をからかい、翔太郎が何時ものように怒りの感情を露わにしていた間、フィリップと亜樹子の動作が止まったままだったのが異様に面白かった。
翔太郎の甘さとアホさと格好よさを、照井竜の抱える悲しみとともに程よく描いた話だったが、翔太郎の「保護者」としてのフィリップと亜樹子の姿も程よく描かれた。例えば、今朝の冒頭。照井竜の復讐を止めた翔太郎に照井竜が斬りかかろうとしたとき、翔太郎を庇うように立ちはだかって攻撃を止めさせた亜樹子。亜樹子が翔太郎の生命を救うのは第十一話に続いて二度目、生命を救おうとして力尽きそうになっていた第十六話も含めれば三度目になるだろう。
他方、フィリップが翔太郎の前で照井竜の行動をハードボイルドを形容してみせたのは、ライバルがいてこそ闘志を燃え上がらせる翔太郎の性格をよく知った上での彼なりの激励だったのが明白だ。フィリップの家族のこと、亜樹子の父親のことがこの物語に不可欠の要素であるのに比べて、翔太郎の家族のことは現時点で劇中に一度も語られたことがないかと記憶するが、或る意味においてフィリップと亜樹子が、翔太郎にとって弟や妹であると同時に兄や姉のようなものでもあるのかもしれない。
照井竜が亡き家族の仇として語る「ダブリュウのメモリを持つ者」は、園咲家の支配下の者ではなかったどころか、園咲家にとっても容易には手出しの出来ない強敵であるらしい。