ヤマトナデシコ七変化第五話

TBS系。金曜ドラマヤマトナデシコ七変化」。第五話。
原作:はやかわともこ。脚本:篠崎絵里子。演出:石井康晴
今宵は遠山雪之丞(手越祐也)主役の話か?と思っていたら意外にも森井蘭丸(宮尾俊太郎)主役みたいに見えた。聖ワレンティヌスの日の話ということで、森井蘭丸のドン・ジョヴァンニ気質が存分に発揮されて目立っていた。彼等の居住する城に千五百年前から宿っていた女の幽霊を相手に、その「成仏」を「昇天」で代替しようとした際の彼がそこにエロティクな意味をこめていたのをはじめ、普通の会話をも悉くエロティクな意味に変換してしまう思考の傾向も面白かった。しかし何といっても彼を主役のように見せたのは、幽霊の怨念を解くことができたのが高野恭平(亀梨和也)の暴動でもなければ遠山雪之丞の説得でもなく、唯一、あの城に居住する青年たちの中で一人だけ年齢層が違うのではないかとさえ見えてしまう程に貫禄のある森井蘭丸の、大人のエロース(=愛)だけだったことだ。
織田武長(内博貴)の存在感も見えてきた。中原スナコ(大政絢)をめぐって高野恭平と遠山雪之丞が喧嘩をしていたとき、彼等二人はそれぞれ織田武長を味方にしようとしたが、その際、彼を「先生!」と呼んで、まるで小学校の生徒が同級生の悪事を教師に訴えるかのように、相手の不当を主張しようとした。中原タケル(加藤清史郎)を抱き上げたり手を引いて一緒に走ったりしたのを含めて彼は一家の兄のようだった。
遠山雪之丞は高野恭平にとって中原スナコが「特別」であるに違いないと確信し、高野恭平もそう感じ始めているし、森井蘭丸は彼等三人を三角関係と見て、そして織田武長は中原スナコにとっても高野恭平が何かしら「心をかき乱している」らしいことを重く見ている。でも、どう見ても中原スナコにとって一番の「特別」な相手は今でも解剖図解の模型の「ヒロシくん」であるとしか見えない。その辺をどう持ってゆくのか、恋か笑いか、見守るのみ。
中原スナコが、まるでDV夫のような高野恭平のための雑用を引き受け、一日千円の生活費で毎日の豪勢な食事を準備するために色々工夫して遣り繰りをしている上に、自身の小遣いを稼いだり生活費の足しにしたりするために造花か何かの内職(単価二銭!)までも必死にこなしている姿は余りにも涙ぐましく健気で、冷静に考えれば泣けてくる程であるはずだが、あのコウモリみたいな黒装束と震える声の所為で楽しく見えてしまう。髑髏型の菓子で飾られた呪いのチョコレイトケーキを拵えていたのも、方向と結果との落差の大きさの所為で笑えることになっている。