旅行記一奈良県立美術館花鳥画展

旅行記一。
このところ休日が殆どない日々が続いていた結果、その埋め合わせで今日から不意に四連休。ゆえにそれを有効活用すべく旅行を計画。行き先の一つとして奈良を考えたが、しかるに平城遷都千三百年祭の記念年だからか、それとも行楽の季節だからか、奈良でも京都でも、ホテルの空室がなかったり、あっても一泊の料金が普段よりも高かったり。仕方ないので阪急梅田駅にあるホテルに予約を入れて、慌しく準備を整えて朝四時半に家を出発し、五時頃にJR松山駅を発って十時頃にJR奈良駅に到着。駅の一階のコインロッカーへ荷物を預けた。
駅前の通を歩いていたところ、和装の人々が踊り歩いていた。奈良市レクリエーション協会創立六十周年記念の祭だったらしい。これで何となく観光気分が盛り上がった。賑やかな通を抜けて猿沢池の脇を歩き、階段を上って北上して奈良県立美術館へ。同館で開催中の平城遷都千三百年祭特別展「花鳥画-中国・韓国と日本」を観照した。
流石、平城遷都千三百年祭特別展と銘打っただけのことはある!と肯かざるを得ない程に素晴らしい作品が盛大に展示されていたが、中で私的に特に心惹かれたのは、室町時代水墨画、式部輝忠筆「遊魚図扇面」(個人蔵)。大きな魚と、群をなす小さな魚たち、そして藻がそれぞれ描く曲線の交錯が美しい。
重要文化財、狩野元信筆の大徳寺大仙院方丈襖絵「四季花鳥図」八幅(大徳寺蔵)は威厳に満ちた傑作。明代の画家、辺楚善の筆に成る「夏景聚禽図」(出光美術館蔵)は暗い画面に黒い鳥が描かれているのがよい。近衛家旧蔵とのこと。宋紫山筆「花鳥図」(個人蔵)は、流石に江戸時代後期の作であるだけに新しく、色彩が鮮明だが、この絵を明るく新鮮に見せているのはそうした物理的な条件のみではなく、むしろ写実的な描法を取り入れたことによって形態が引き締まり、空間が広々と整理されて捉えられた効果も大きいだろう。鳥の羽の模様や花の姿も細密に描出されて極めて美麗。鈴木其一筆「群禽図」は装飾的と形容されるような洒落た形態の把握が楽しいが、それを可能にしているのは無駄の一切ない端麗な筆遣い。江戸琳派が見せるこの種の完成度の高さには何時も圧倒される。
図録五冊を購入して昼一時頃に館を出たあと、本来なら直ぐに近鉄奈良駅へ向かい、学園前駅で降りて大和文華館へ行く予定だったが、折角こんな東大寺の近くに来たのだから大仏殿だけでも拝観しておこうと思い、重い荷物を抱えたまま東大寺大仏殿へ。しかるに修学旅行等の団体客も多く凄まじい人混みだった上に鹿の群も活動的で、二時頃に東大寺を出たときには疲れ果て、春日大社へ行く余力もなかった。そういえば昼食も摂っていなかった。興福寺の休憩所でワラビ餅を摂って少しは気力を取り戻したが、睡眠不足の所為もあって疲れが甚だしかったので大和文華館へ行くのを断念。花鳥画の傑作を数多く見ることを得た上に鹿の多様な姿も撮影することができたし、大仏も拝観したので充分だろう。賑やかな通を抜けて奈良駅へ戻り、荷物をまとめて、奈良駅から大阪駅へ。
夕方五時前に梅田駅のホテルに入り、早めの夕食のため外出して、周辺を歩き回ってホテルに戻ったあと、土曜ドラマQ10(キュート)」を見るべく待機していたところ何時しか寝てしまい、起きたのは深夜十一時五十九分。見逃して残念だが、家で録画を予約して来たので帰宅後に見ればよい。なおも眠かったので再び寝た。