サンデル教授の白熱講義

米国ハーヴァード大学政治学マイケル・サンデル教授による「ハーバード白熱教室」が見事に完結。
正義を論じるにあたって善を語ることは近代の哲学・政治学・法学等においては一般に避けられる傾向にはあるが、善を考えることなくしては正義を考えることができないのみならず、むしろ正義から善を切り離し切り捨てるような思考こそ、現代世界の文化の多元性を尊重するためのものであるかに見えて実際には文化の多元性から目を逸らし目を閉ざすことにしかならない恐れがあるのであり、古代人アリストテレースに倣って正義と善とを結び付け、善を考えることを通してこそ文化を異にして正義を異にする他者との真剣な対話への道が開かれるのである…という主張で全十二回の講義は締めくくられた。
アリストテレースに関する取り上げ方に関して云えば、最初に自然学におけるその目的論を敢えて童話の世界観を引き合いに出して解説して、少々馬鹿にしてみせたのは実に秀逸だった。なぜならそのことによって逆に、自然学における目的論を根拠にして政治学倫理学における目的論をも否定し去るという乱暴な論法を予め排除し得ていたからだ。現代の自然科学においてアリストテレースの目的論が無意味であることは、現代の政治や倫理の問題においてもそれが無意味であることの根拠には到底なり得ない。