橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第十部第十二話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第十二話。
大井貴子(清水由紀)は、森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])と一緒にいるとき見るからに幸福な表情をしていて、そして小島眞(えなりかずき)には今や何の愛情もないことが既に明白ではないだろうか。だが、もっと注目すべき点は、小島眞が大井貴子に会うため高級料理店「おかくら」を訪ねたとき、準備中の店に残っていた岡倉大吉(宇津井健)と青山タキ(野村昭子)が何とも気まずそうな表情をしていたことだ。
店の仕事が終わったあと大井貴子は森山壮太を伴って帰宅していた。脳梗塞の父を回復させた経験のある森山壮太は、同じ病になった大井道隆(武岡淳一)のリハビリのため何から何まで助力していて、このときも身体を動かせるようにするための訓練を助けていたのだ。実に頼もしい様子で、大井貴子もそれをいかにも頼もしそうに見詰めていた。
そして岡倉大吉と青山タキは両名が現在そうした関係にあることを知っていて、しかも好ましく見ている様子であることが窺えた。事実上の公認の仲ということに他ならない。小島眞が大井貴子に会いに来たのを受けて岡倉大吉と青山タキが気まずそうにしていたのはその反映と見ることができる。
岡倉大吉が孫の小島眞に対して、仕事よりも大切なものがあるのではないか?時々は見詰め直してもよいのではないのか?と助言したのは、一時は小島眞の婚約者だった大井貴子が自身の愛弟子である森山壮太に恋心を抱き始めているのを目の当たりにして、しかもそれが似合いの二人であると文句なく認めざるを得ない中で、愛弟子を祝福してやる前に先ずは孫のためにも一応の忠告をしておきたいと考えた上での行為ではなかったかと想像できよう。意地悪な云い方をすれば、アリバイ作りのようなものだろう。
小島眞は大井貴子の家を訪ねるにあたり、人気の洋菓子店でケーキを買って土産に携えて来ていた。それは大井貴子が社長令娘だったとき愛していたケーキだった。しかし大井貴子はそれには余り心動かされなかった。結局、小島眞は今の大井貴子に昔の大井貴子を重ね合わせて見ているに過ぎない。今の大井貴子を確とは見詰めていない。大井貴子は今の自分が昔の自分とは違うということを繰り返し強調しているのに、小島眞はその意味を理解しようともしていない。両名の間には致命的なまでのズレがある。あのケーキはそのことの象徴だったのだ。