橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第十部第十三話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第十三話。
森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])の言動には一点の曇りもなく、友であり恩人でもある小島眞(えなりかずき)のため、小島眞の大切な人であると同時に自身の仕事仲間でもあり似た境遇にある友でもある大井貴子(清水由紀)の手助けをしている。大井貴子も父の大井道隆(武岡淳一)もそのことに心から感謝していて、そして彼等の職場である高級料理店「おかくら」の人々は皆このことを快く思っている。唯一人、小島眞だけが不快感を抱き、焦っているのだ。
確かに森山壮太と大井貴子との関係は今や、小島眞と大井貴子との関係とは比較にもならない程に良好であるし、森山壮太が実に頼もしいところを発揮して、大井家の人々から頼りにされている状況が小島眞を焦らせたとしても致し方ない。しかし医療の専門家である本間常子(京唄子)が厳しく述べたように、大井道隆のリハビリの介助には技術知と体力が必要であり、森山壮太は経験者であるから介助の役が充分に務まるが、何の経験も知識も体力もない小島眞がそれに取って代わり得る道理なんかないのだ。
小島眞は、公認会計士の地位を犠牲にしてでも大井家のために奉仕したい!という己の急な決意に反対する小島勇(角野卓造)や岡倉大吉(宇津井健)に対して「誰も俺の気持ちを解ってはくれない!」と反発していたが、父や祖父の反対の理由がどうあれ、彼の主張は甚だ分が悪い。
なにしろ大井道隆自身も、岡倉大吉と同じ意見を持っているのだ。(1)辛いリハビリが小島眞の下手な介助によって心身ともにさらに辛いものになるよりは、森山壮太の巧みな介助によって負担なくリハビリに打ち込み、回復できる方が望ましいし、(2)小島眞には公認会計士の資格を取得するための大事な時期を無駄にして欲しくはない…という大井道隆の手紙には、小島眞への愛情と自身の本音がともに誠実に表されていると云える。
それなのに!そんなにも誠意ある大井道隆の手紙に対してさえも小島眞は「誰も俺の気持ちを解ってはくれない!」と反発したのだ。何とも本末転倒な話ではないか。誰のための介助であるのかも、今や見失ったようだ。
小島眞は今、己の気持ちのことしか頭にない。己の愛情、己の介助が、それを向けられる相手にはどのように受け取られるかを微塵も考えようとはしていない。己の行為が相手を不幸にするかもしれない可能性を考えない。
もっとも、気になるのは大井貴子の反応だ。ここに及んで大井貴子は急に、小島眞に対して好意的な、あるいは同情的なことを云い始めたからだ。かつて小島眞へ抱いた想いは今も変わってはいない…という言は、果たして大井貴子の本心から発せられたのかどうか。仮に本心からの発言であるとすれば、これまでの言動とは余りにも一致しない。余りにも歪んでいる。他方、仮に本心に反する言であるとすれば、それは小島眞を失意の底へ突き落さないための配慮に基づいていたのかもしれないが、それは却って小島眞をさらに暴走させ、取り返しのつかない事態を出来するかもしれない。