仮面ライダーオーズ第二十二話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第二十二話「チョコと信念と正義の力」。
火野映司(渡部秀)の正義論をどう見ることができるだろうか。
正義を貫くべく、悪を倒さなければならない!という信念に憑りつかれた男、神林進(伊嵜充則)の「欲望」から生み出されたバッタ型ヤミーは、少なくとも局所的には街の悪い奴等を退治していた。困っている人々を助けていた。まるで正義の味方のような行為をしていたのであり、バッタを連想させるその姿は仮面ライダーのようでさえあった。これまで火野映司=仮面ライダーオーズは困っている人々を助けるために、様々な欲望から生じたヤミーを倒してきたが、果たして今回のような、正義を欲求するバッタ型ヤミーを倒さなければならない理由はどこにあるのか。
この難問を提起したのは後藤慎太郎(君嶋麻耶)だった。天使のような容姿に悩める少年の心を宿した青年は、正義の味方になって、世界の平和を守るために戦いたいという願望を抱きながらも、そのための力を持ち合わせない己の現状を、神林進に重ね合わせていた。同時に、神林進の長男である幼い神林隆(中西龍雅)が父に同調して悪を憎み正義を希求しながらも、正義を貫くことの難しさを感じて迷ってもいるのを見て、後藤慎太郎は世界を守るための力を持ち得ないでいる己の弱さと迷いを見詰め直していた。
後藤慎太郎の疑問に対して火野映司は、行き過ぎた正義は悪に転じ得るからであると答えた。「正義のためなら人間はどこまでも残酷になれる」。
なるほど一つの真理であるには違いないが、今回の事件に関しては彼の見解は本質を見誤っている。なぜなら神林進の「欲望」の本質を見誤っているからだ。神林進は、ウヴァ(山田悠介)と出会ったときには既に、善悪を判定し悪を改めさせて正義を守ること自体からは逸脱し、むしろ悪い奴等を倒して世界から排除することをこそ願望するようになっていた。これは正義ではなく、確かに単なる欲望だ。この欲望がウヴァによって解放された結果、バッタ型ヤミーが生じた。ゆえにあのヤミーは正義のための手段として悪を懲らしめるのではなく、暴力のための口実として、手段として悪い奴等を探し求めたに過ぎなかったのだ。
もし神林進があのとき正義をこそ欲求していたなら、いかなるヤミーも生じること自体がなかったろう。父と一緒に親子三人で生活したい!という神林隆のささやかな「欲望」がヤミーを生じ得なかったように。正義という理想は余りにも大きいが、それは現実の世界では常に眼前の出来事の是非を問う形でしか現れないとすれば、正義を希求する行為は、たとえ戦争を生じ得る国家間の大問題であっても、常に一回限りの、その場限りの、その都度の各自の真剣な判断を要する行為でしかあり得ないように思われる。そうであるならそこにヤミーの生じる余地はないだろう。
このように考えるなら、行き過ぎた正義は悪に転じ得るという火野映司の説は、バッタ型ヤミー発生の理由としては少し外れているしバッタ型ヤミー暴走の理由としては大いに外れているが、むしろ神林進に与える指針として、正義の行為は眼前の出来事に対する一回限りの行為でしかないことを想い起させるためには正しかったろうか。彼は神林進に対しては「目の前で起こっていることに一所懸命になるしかないんです。小さな幸せを守るために」と述べたが、これは眼前にはいない悪い奴等をもわざわざ訪ね歩いては懲らしめようとした神林進の無謀な行動に対しては的確な戒めになったろう。
他方、後藤慎太郎は心身を鍛え直していた。悩みながらも自ら一心不乱に身体を鍛え、そして伊達明(岩永洋昭)の指導下に訓練を続けながら、己の信念に自信を持つべく激励されてもいた。伊達明が闘うのは報酬を得て金を稼ぐためだが、そうして一億円を稼ぐことの先には何か目的があるようだ。何か途方もなく大きな目的だろうか。そのために一億円が必要で、しかし一億円を稼ぐために彼は日々セルメダル回収という業務に従事している。並の仕事では一億円なんか十年や二十年では稼ぎようもないし、多分この業務であれば報酬が大きいのかもしれないが、根気も体力も度胸も並大抵ではなく必要だ。伊達明にはそれがある。後藤慎太郎は彼のそうしたところを見逃さなかった。そして、世界の平和を守りたいという大きな目的のために、先ずは己の力を鍛え直しながら、今の己の力で成し得ることを一つ一つ見極め、実行してゆくことを決意したに相違ない。
ウヴァが二体目のバッタ型ヤミーを発生させるべく、神林進に同調していた幼い神林隆をも利用しようとしたとき、ウヴァに捕えられた後藤慎太郎は、狙われた神林隆に、「どうしてよいことをしたいと思った?答えろ!」と叫んだ。悪い奴等を倒したいという「欲望」を解放させることでバッタ型ヤミーを発生させることがウヴァの狙いだったが、後藤慎太郎は神林隆の正義感の根源が父への家族愛にあるだろうことを察していたろう。ウヴァの狙いは外れ、呆然としていたところで後藤慎太郎からの反撃を受けた。
実に格好よい後藤慎太郎を見ることができたが、闘い済んだあとには料理店クスクシエで天使の扮装をさせられた天使のような後藤慎太郎をも見ることができた。