渡る世間は鬼ばかり第十部第十七話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第十七話。
建築家の大原葉子(野村真美)は、建築家として大きな仕事を手掛けるということに関して、何かしら極めて非現実的な夢想家であるのだろうか?と思わずにはいない。なぜならこの零落の建築家は、十歳下の夫の大原透(徳重聡)が建築学における自身の師の営んでいる設計事務所に就職したことを聞いて、悲しんでいたからだ。なぜ悲しまなければならないのだろうか。彼によれば、その設計事務所は今、大きな仕事をいくつも抱えていて極めて多忙だとか。そうであれば彼も大きな仕事に参画することになるのは自明であるし、上手くゆけば大きな仕事の一つを任されることにもなるかもしれない。そうして着実に仕事をこなしてゆけば業界、学会で存在を認められ、やがては建築家、建築学者として独立してゆくこともできるかもしれない。これこそ、建築家として大きな仕事を手掛けてゆくことを実現するための、不可欠の第一歩、夢への第一歩だろう。どこにも属さずに仕事もないまま一人で燻っていても仕方がないではないか。大原透はよい選択をしたとしか思えない。
ともあれ、こうして大原透が光り輝けば輝く程に、ますます貧しく見えてくるのは小島眞(えなりかずき)。森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])は相変わらず大井貴子(清水由紀)がやがては小島眞と結婚するだろうことを信じ込んでいる様子であるし、大井貴子は小島眞に対する自身の想いは昔も今も変わってはいないことを小島五月(泉ピン子)に対して述べてはいたが、結婚の意志は一切ないことも断言していた。想うに、かつて大井貴子が小島眞と婚約していたのは小島眞を愛するからではなく、あくまでも父の大井道隆(武岡淳一)のため、父が自身の腹心の部下にしたいと考えていた小島眞を、大井家の一員として迎えるためではなかったろうか。