デカワンコ第七話

日本テレビ系。土曜ドラマデカワンコ」。第七話。
定められた時限までに何かを完了させなければならないという条件は、ドラマの中に緊張感を生じ得る。刑事ドラマの場合、逮捕から四十八時間内に検察へ送致できなければ釈放しなければならないという条件がその例だろうが、今宵のこの第七話では、四十八時間内に自白をさせるという条件に加えてもう一つの期限が設定されていた。健康診断が終了するまでは飲食をしてはならないという条件がそれで、しかも四十八時間の問題よりも健康診断の問題の方が重大に見えたのが面白いところだった。
取調室で警察を翻弄してみせた被疑者は山村紅葉とマツコデラックスを足して二で割ったような人物。巨体で女装をしているが、山村渚という名も、名だけでは性別を判別できない。昼の休憩時間には留置所でカツ丼や天丼を盛大に摂っていた。山村渚は男子アイドル集団ジュースのコンサートに行っていたのでアリバイがあると主張。ヤナこと柳誠士郎(大倉孝二)からジュースという名を聴いたキリこと桐島竜太(手越祐也)は少し不機嫌な顔になっていて、ワンコこと花森一子(多部未華子)が「ニュースじゃなくてですか?」とヤナに聴き返したときにはその横で、いかにも吾が意を得たという表情で頷いていたが、ヤナから「ニュースじゃねえ。ジュースだよ。何だよ、ニュースって聞いたことねえよ」と云い返されるや、即座に真剣な顔で「あいつら、めっちゃカッコいいっすよ」と反論していた。キリはNEWSのテゴシ辺を高く評価しているのだろうか。
所謂「二時間サスペンス」の場合、真実を決して語ろうとしなかった真犯人が全てを明らかにするのは大抵、荒波の打ち寄せる断崖絶壁の上で全ての関係者を前にしてのこと。なぜ崖の上に犯人を追い詰めるのか?という問題についてチャンコこと和田純(石塚英彦)とシゲこと重村完一(沢村一樹)が説明したとき、ワンコはシゲに浅見光彦ドラマをよく視聴していることを明かしていた。
ワンコも警視庁の見学の仕方について視聴者のために解説。
山村渚は、何かと英語を用いるデークことデューク・タナカ(水上剣星)に対し「日本語も英語も中途半端ね」と文句を云った。
この山村渚が殺人に及んだ動機には深いものがあった。自身が心から愛し、大切にしているものを他人に否定されるのは悔しいことだが、しかも、五百万円もの大金を支払ってでも身近に置いて観照して楽しみたいとまで思った絵画を、その作者が何の価値もない落書でしかないと思っていて、それでもそんな落書を絵画として販売したばかりか、五百万円も出して買い取った相手を影で笑いものにしていたのだ。これは金銭の問題ではなく美学の問題、否、愛と人生観の問題であり、山村渚の行為は許されないが、動機には一応、同情の余地がないわけではないかもしれない。
拘置所におけるガラこと五十嵐太一(佐野史郎)は正座して食事を摂りながら、何か意を決したかのような鋭い眼をしていた。ガラが無実である可能性を嗅ぎ取ったワンコは、その可能性について警視総監の松田洋雄(伊東四朗)相手に語ったが、警視総監は相手にしなかった。殺人の現場に残されていた匂いはガラのものと警視総監のものだった以上、ガラが犯人でなければ警視総監を疑わざるを得なくなるから、相手にしないのは無理もないが、ワンコが皆が出て空になろうとしていた警視庁刑事部捜査一課の第八強行犯捜査の殺人捜査第十三係の室内に「嫌な匂い」を感じたのは、謎を解くための第三の匂いを想起したからだろうか。