大切なことはすべて君が教えてくれた第八話

フジテレビ月九ドラマ「大切なことはすべて君が教えてくれた」。第八話。
今宵九時からこのドラマが始まって約二分が経過した辺に来た場面のこと。明綾学園高等学校の二年一組の教室の入口の前。朝、登校の時間。
園田望未(剛力彩芽)が元気のない佐伯ひかり(武井咲)に「告白して振られた位で深刻になるなっての!」と話しかけていたとき、丁度そこへ歩いてきた鉄道オタク少年の児玉賢太郎(中島健人[ジャニーズJr.])。またしても鉄道の時刻表と思しい書物を読みながら。
眼前に両名の姿があることに気付いて少々気まずそうな顔をしていたのは、先日(第七話において)片想いの相手である佐伯ひかりにその想いを告白したところ、なぜか手酷く怒られ、嫌われてしまったのを気にしたのだろう。しかるに丁度そのとき「告白して振られた位で深刻になるな」という園田望未の言葉を耳にしたのだ。
もちろん彼は両名が何を語り合っているのか大いに気にしていて、聞き耳を立てていたに違いない。集中力を高め、全ての意識を自身の耳に集中して。だから彼は教室に入ろうとしながら戸を開けることも忘れ、そこに戸があることさえも忘れてそのまま突進し、思い切り戸に激突してしまっていた。
ところが、そうして彼の耳に入ってきた言葉が「告白して振られた位で深刻になるな」だったのだ。まるで自分のための激励のようだ!と彼は感じたに相違ない。園田望未は佐伯ひかりを笑わせようとしたが、佐伯ひかりは笑わなかった。その様子を見ていた児玉賢太郎は、自身こそが、笑って笑わせる存在でありたいと願ったろうか。
次いで、今宵九時からこのドラマが始まって約十二分が経過した辺に来た場面のこと。明綾学園高等学校の二年一組の教室内。
教室内の座席の位置関係を確認しておくと、児玉賢太郎の座席の、一つ前に園田望未の座席があり、左隣に佐伯ひかりの座席がある。園田望未が佐伯ひかりを笑わせるべく再び試みて、まるで殴りかかろうとするかのような仕草をしたとき、その直ぐ後で時刻表を読んでいた児玉賢太郎は、まるで自身が殴られようとしたかのように思って、かなり驚いていた。
そして三つ目の場面。今宵九時からこのドラマが始まって約三十分が経過した辺に来た場面のこと。明綾学園高等学校の校舎と校舎とを二階で繋ぐ渡り廊下。放課後、清掃の時間。
深刻なとき深刻な顔をしていれば何かが好転するの?どうしようもない状況にあるとき悲しい顔をしていれば何かがどうにかなるの?それよりはむしろ、辛いときこそ笑っていた方がよい!と園田望未が佐伯ひかりに語ったとき、どうやらそれを聞いて意を決したのか、児玉賢太郎少年は箒を動かしながら急ぎ足で近寄ってきて、密かに顔をほぐして笑顔の練習もした上で、佐伯ひかりに声をかけ、眼鏡を外して、眼を輝かせ、まるで男子アイドルのような輝ける笑顔を作って、「また明日!」と挨拶をした。
流石に緊張していたようで、ギコチない動作で立ち去ろうとしてところで足がもつれて、掃除用のバケツに躓いて、またしても転倒してしまった。立ち上がったとき、駆け寄ってきた他の女子二人組からはバケツの水をこぼした件について文句でも云われたのかもしれない。申し訳なさそうな顔をしつつ、逃げるように去った児玉賢太郎。
天敵の園田望未は驚きつつ呆れ果てたような声で「児玉!」と怒鳴っていたが、一部始終を見ていた平岡直輝(菅田将暉)は、普段は無口で無表情で冴えない児玉賢太郎の勇気ある行動に触発されたのか、自身も笑顔を取り戻そうと決意したようだった。そして佐伯ひかりも、微妙に笑い出しそうな顔をしていた。
児玉賢太郎は無口で内気で孤独ではあるが、陰湿ではなく、むしろ底抜けに陽気で、前向きな本性を持ち合わせているのかもしれない。先週の第七話における告白と今宵の第八話におけるこの笑顔の挨拶を見る限り、そう思えてくる。恋心の力がそれを開花させるとすれば実に興味深い。