仮面ライダーオーズ第三十三話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第三十三話「友情と暴走と残されたベルト」。
ロスト=アンク(飛田光里/声=入野自由)のセルメダルから生じた白フクロウのヤミーによって、伊達明(岩永洋昭)が誘拐された。バースに変身するためのベルトがあとに残された。これに先立って泉比奈(高田里穂)も、そしてアンク(三浦涼介)までも何者かによって誘拐されていた。そして不在の彼等を探していた火野映司(渡部秀)と後藤慎太郎(君嶋麻耶)を、再び出現した白いフクロウのヤミーが襲撃してきた。
このとき火野映司は後藤慎太郎に「じゃあ、後藤さんがバースに!」と促したが、その一言で一応一瞬は変身への挑戦を考えたようにも見える後藤慎太郎は、ベルトを手にして瞬時に思案して、結局「俺がバースに?いや、今の俺じゃ無理だ!」と結論を出して、カンドロイド等を駆使して応戦しようとしたところで、自力で脱出して現場へ駆け付けたアンクが火野映司へメダルを寄越して変身をさせたが、生憎、後藤慎太郎までも白いフクロウのヤミーによって誘拐されてしまった。
しかし今回は後藤慎太郎にも鮮やかな見せ場があった。今朝の話の前半。紫のコアメダルの力によってオーズ=火野映司が暴走し始めたとき、近くにその様子を見物して笑うカザリ(橋本汰斗)の姿のあるのを見出した後藤慎太郎は、敢えてオーズを銃撃してオーズの注意を惹き付けながら徐々にカザリの方へ歩み寄り、近接したところで瞬時に逃れてオーズの注意をカザリへ向けさせ、オーズの攻撃力の全てをカザリへ打つけさせた。突然の衝撃にカザリは狼狽して逃げたが、火野映司も正気に返った。的確な判断、正確な行動による見事な作戦で、伊達明は彼の勇気と英知を賞賛した。
この見事な判断と行動があったのを踏まえるなら、「今の俺ではバースに変身するのは無理だ」という後藤慎太郎の判断も、実は臆病なんかではなく、英断だったのではないかと推察されよう。もし下手に変身していたなら、最悪の事態を惹起していたかもしれないのだ。
ロスト=アンクからセルメダルを投入されて白いフクロウのヤミーを産出した「ヤミーの親」はIT長者の北村雄一(中山卓也)。高校生だったときには火野映司の同窓、同学年だったが、同級生ではなかった。しかし誰にでも愛情を注ぐ火野映司は、所謂ヒキコモリだった北村雄一にも親切にしていた。北村雄一はそのとき以来、火野映司を最愛の親友であると思い、最大の理解者でありたいと願った。彼がヒキコモリ少年から一転して功成り名遂げるまでに奮起し得たのは、多分、火野映司の支援者、庇護者になりたかったからこそだろう。既に明らかにされたように火野映司は政治家一族の一員で、もともと財力にも権力にも恵まれた身分だった。そんな彼のために支援者、庇護者になろうとすれば、並大抵ではない立身出世が必要だったろう。
もっとも、火野映司の同窓だったとすれば富裕な家庭の子弟の通う高等学校の生徒だったはずであるから、もともと北村雄一も富裕な家の子だったと想像されるが、それにしても火野映司の最大の理解者でありたいという彼の願望、欲望の強さには凄まじいものがあると云うべきだろう。
全ての欲望がヤミーを生じ得るわけではない。例えば(第二十一話と第二十二話で描かれた通り)、家族で一緒に生活したいという欲望はヤミーを生じ得なかったが、悪者を一掃して世の中を浄化したいという欲望はヤミーを生じた。この差は何か。ウヴァ(山田悠介)は欲望の強さの差であると感じたようだが、むしろ欲望における偏向性の有無の差ではないかと考えてはどうだろう。家族で一緒に生活したいという欲望は健全で、何一つ歪んだ点はないと認められるが、悪者を一掃して世の中を浄化したいという欲望は、いかなる情状も酌量せず悪事の大小をも考慮せず問答無用で何者かを悪と決め付けて一方的に断罪する点において、かなり勝手な正義感であり、正義ではなく歪んだ欲望に過ぎないと云わざるを得ない。
そう考えるなら、北村雄一の「友情」も歪んだ欲望でしかなかったと見るほかない。相手の意向も確認せず己の庇護下に入ることを迫るというのは極度の独占欲でしかない。それどころか、愛する者を手に入れるために邪魔者を誘拐して遠ざけてみたり、しかるに当の愛する者がその誘拐された者を探し求め始めたのを見るや、逆に自ら救出者として振る舞うことで愛する者の前に己の力を誇示して信頼を得ようとしたりしていて、彼は欲望を満たすためには悪事を働くことも辞さなかったのだ。もし彼が普通の片想いを抱いているだけだったなら、ヤミーなんか生じる余地もなかったろう。