渡る世間は鬼ばかり第十部第四十四話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第四十四話。
今宵の「渡る世間は鬼ばかり」における五つの出来事。(1)本間日向子(大谷玲凪)が高校生料理コンテストの決勝戦へ出場するため岡倉家の玄関を出たとき、今回も、インターネット上で知り合った友の「トモ君」こと乃木智(菊池風磨[ジャニーズJr.])が颯爽と迎えに来た。(2)本間日向子がそのコンテストで見事に優勝し、コンテストを主催した放送会社が自社のテレヴィ番組で優勝者とその家族を特集するため、テレヴィカメラとアナウンサーを含めた本格的な撮影隊が岡倉家の高級料理店「おかくら」を訪ねてきたとき、今まで本田日向子の料理人志望に反対し続けてきたはずの母の本間長子(藤田朋子)がここで急に態度を一変させ、娘の料理人志望を心の中では応援し続けてきたかのような言動を始めた。(3)野田弥生(長山藍子)と野田良(前田吟)の奇妙な大家族は結局、孫の野田勇気(渡邉奏人)のため、彼の愛する友である合田篤(小林海人)の里親になることを決定した。(4)森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])と長谷部まひる(西原亜希)が意気投合した。(5)長谷部まひるが大井貴子(清水由紀)を挑発した。
これらの内、四番目と五番目について少し語ろう。
かねて大井道隆(武岡淳一)は娘の大井貴子と小島眞(えなりかずき)とを結婚させたいと願っていて、信頼できる森山壮太に、その成就のために行動して欲しいと依頼した。森山壮太はそのための作戦を考え、長谷部まひるに協力を依頼し、長谷部まひるは協力を約した。
ここにおいて注目に値する告白が三つあった。森山壮太が(1)実は密かに大井貴子に心惹かれてもいたことを長谷部まひるの前では素直に認めた上で、それでも、(2)友である小島眞を裏切ることはできないし、(3)大井貴子の父は娘の結婚相手としてはあくまでも小島眞のみを考え、かなり信頼しているはずの森山壮太を少なくとも娘の結婚相手としては寸毫も考えようともしていなかった以上、諦めるほかないと弁えていることをも述べたのだ。
これだけ重要な事実関係が今までの長々しいドラマの中では大して描かれることもなかったまま、こうして長々しい台詞の中だけで一気に説明し尽くされてしまった辺は、流石に橋田壽賀子流儀であると感心するほかない。
この告白は、森山壮太に対する長谷部まひるの関心や好意や信頼をさらに高めたようだ。小島眞との恋を諦めざるを得なくなった長谷部まひるは、大井貴子に対する忍恋を諦めた森山壮太に親近感を抱き、似た者同士として共感した。森山壮太もそれに同意した。両名は、小島眞と大井貴子とを結び付けるための作戦の決行を前に、完全に意気投合したのだ。
そして作戦を決行するの夜。小島眞は森山壮太に呼び出されて高級料理店「おかくら」へ来た。作戦の会場は店内ではないが、いかんせん森山壮太も大井貴子も店の営業時間内は店を離れるわけにはゆかないので、待ち合わせ場所として店を指定していた。長谷部まひるもそこへ来ていたのだが、どういうわけか、長谷部まひるの兄であり小島眞の上司でもある長谷部力矢(丹羽貞仁)までもがそこへ来てしまった。この日の朝、長谷部まひるが夕食を外で済ませることを予告していたので、兄である彼も夕食を外で済ませることにして、そのために偶々「おかくら」へ来てしまったのだ。
こうして役者は揃った。壽賀子源氏の五人衆とでも云おうか。
長谷部まひるの攻撃は熾烈を極めた。小島眞と己との交際なんか、そもそも祖母の長谷部マキ(淡島千景)を欺いて安心させるだけのための偽装の恋でしかなかったと云い放ち、もし本気で交際相手を探そうと思うなら小島眞よりもマシな男子は浜の真砂の如く数多いるのに、敢えて小島眞で妥協しておいたのは兄の部下で手近だったからに過ぎないとまで付け加えたのだ。これには大井貴子も怒った。小島眞は立派な御方で、その御方をこのように侮辱するような女に、小島眞と交際するどころか交際を偽装する資格さえもあるはずもないと反論したのだ。こうして高級料理店「おかくら」のカウンター席に突如として生じた熾烈な論戦。凄いのは、この論戦において勝手に俎上に載せられてしまった小島眞が、何とも情けない顔で黙って耐えていたこと。しかも彼の祖父や叔母や従妹が皆それを聴いていたことだ。