仮面ライダーフォーゼ第十九話

仮面ライダー生誕40周年記念作品「仮面ライダーフォーゼ」。
第十九話「鋼・竜・無・双」。
如月弦太朗(福士蒼汰)は仮面ライダー部へ新規入部した朔田流星(吉沢亮)に早く打ち解けてもらうべく何か役割を与えようとしたが、結果としてそれは歌星賢吾(高橋龍輝)の役割を奪うことに繋がった。歌星賢吾は居場所を失って仮面ライダー部を離れた。そこは本来、彼の居場所だったのに。しかも彼の役割を朔田流星が代行したことで如月弦太朗は戦闘に支障を来している上、危険にもさらされている。当然だろう。なぜなら朔田流星は如月弦太朗を単なる実験台にしているからだ。
歌星賢吾の怒りは正当だ。フォーゼに関する科学者であり技術者であり職人でもある彼にとって、得体の知れぬ新参者に自身の領域を侵されることに我慢がならないのは当然であるし、また、そのことが如月弦太朗との間にこれまで築いてきた信頼と友情の関係を分断することにまで繋がっているのであるから、なおのこと腹立たしいはずだ。
如月弦太朗は歌星賢吾に捨てられて悲しんでいたが、捨てられた理由が今の彼に見えていないのは視聴者にとって悲しい。
多分、彼は歌星賢吾との間の友情の揺るぎなさを、あまりにも確信し過ぎているのだろう。この大切な友が大切に守っている役割の一部を朔田流星に譲らせるような真似をしたとしても、歌星賢吾と自身との間の友情が揺らぐわけがないと彼は信じている。彼が歌星賢吾をそれだけ大きく信じているからに他ならないが、そのゆえに彼には、歌星賢吾の怒りが自然で当然であることが見えなくなってしまっているに相違ない。このような過剰な一方通行の信頼を指して、世間では「無神経」という語で形容する。
天ノ川学園高等学校教諭の大杉忠太(田中卓志)は、如月弦太朗がいつまでも妙な丈の短い学ランを着続けていることについて、「変わらないっていうのは、良い。安心する」と述べた。彼の報われない片想いの相手だった同僚の教諭の園田紗理奈(虎南有香)が急にどこかへ消えてしまったことで落ち込んでいる中で不覚にも云ってしまった語だったようだが、思うに、この「変わらない」ということは如月弦太朗の今回も問題にも関係していよう。万物が流転する現実世界において「変わらない」であり続けることには小さくない労力が必要で、だからこそ人は保守管理の日常業務に飽きて安易に革新運動に流れてしまうのだが、如月弦太朗は「変わらない」であり続けるために自身が費やしている労力の程を自覚できていない。それは彼が超人である徴でもあるかもしれないが、それが歌星賢吾の労力を見ようともしないことに通じているのではないだろうか。