仮面ライダーウィザード第十六話

平成「仮面ライダー」第十四作「仮面ライダーウィザード」。
第十六話「クリスマスの奇跡」。
操真晴人(白石隼也)がウィザードに変身するとき素晴らしく格好よい動作を見せることは時折あるが、今回も華々しかった。直々に出陣してきたフェニックス(篤海)が畳み掛けるように執拗な攻撃を連発して操真晴人の変身の動作を妨害し続けたのに対し、防戦していた操真晴人は一転、素早く身をかわして瞬時に近くのビルディングの壁を駆け上ったかと思えば次に壁を蹴ってそこから飛んで、宙に舞い、敵の攻撃を完全に逃れた瞬間に、迅速に変身を遂げたのだ。
東映の特撮の本質が時代劇の殺陣にあることを想起させる見事な動作だった。
警視庁鳥居坂警察署の大門凜子(高山侑子)と署長(小宮孝泰)との遣り取りは、両名の遣り取りに呆れ果てる操真晴人やコヨミ(奥仲麻琴)の表情も含めてコントとして面白かったが、同時に、劇中に今まで語られなかった真相を軽く明かしつつ組織の論理をも鮮やかに照らし出して興味深くもあった。
大門凜子は今や毎日、操真晴人に密着して、ファントムに関する事件ばかりを追跡している。しかるに本来、ファントムに関する事件を捜査する権限は警察の中では国家安全局〇課のみに属している。鳥居坂警察署のような一警察署がそれに手を出すことは許されていない。ゆえに大門凜子は、毎度あんなにも危険な現場に身を置いているにもかかわらず、形式上は全く働いていないに等しい。そんな大門凜子に救いの手を差し伸べたのは国家安全局〇課の木崎警視(川野直輝)だった。その事実は署長によってさり気なく明かされた。大門凜子のこの行動を容認してよいという指示が、同局から署長に伝えられてきたらしいのだ。云わば署長の権限を超えた仕事に従事する権利が大門凜子には認められたわけだが、これは公表された許可ではなく、機密に属する。署長は、事実上は大門凜子に特別な権利を認めつつも、形式上は大門凜子を部下として管理しなければならない。そこで署長は、他の部下の眼には常に勝手な行動に走っているとしか見えないはずの大門凜子に、然るべく厳しい罰を与えざるを得なくなっている。組織の権限を超えて動く権利は、然るべき地位を伴って付与されるべきであり、そのような当たり前の論理が貫かれていない場合に生じる悲劇を大門凜子は被っている。この悲劇は喜劇に転じて見易くなっている。
今回のゲート、達郎(延山信弘)の話はクリスマスに相応しく幸福な結末を迎えたが、その味わいを深くしたのは、彼の唯一の「家」、養護施設つばめ園を守り続けてきた園長(小倉一郎)の淡々として頼りなさそうな中に満ちる説得力の賜物でもあるだろうか。達郎にとっての唯一の希望は、かつて幼時の彼に希望を与えたクリスマスの贈り物を今度は彼が今の「家」の大勢の子供たちに与えることで希望を与えることにあったが、これは今までにも幾度も描かれてきた操真晴人=ウィザードの行動を支える信念と全く同じであり、ゆえに先週までの十五話を見てきた視聴者には直ぐに受け入れることができる。今までの操真晴人の物語を通して達郎の物語を理解することができるし、達郎の物語を通して操真晴人の物語を確認することができる。
何よりも、他人に希望を与えることこそが自身に希望を与えることでもあるという信念それ自体が、誰にとっても馴染み易く、しかも麗しい。