ぴんとこな第八話

木曜ドラマ9ぴんとこな」。第八話。
歌舞伎の名門「木嶋屋」の御曹司の河村恭之助(玉森裕太)の、杏星学園高等学校における一番の理解者であり親友であると自負している坂本春彦(ルイス・ジェシー改めジェシー)が久し振りに登場。その出番は、番組開始から十分間程を経た辺。炎天下に通学の途上、彼は親友が何時になく慌てた様子で駆けてきたのを見るや、軽くからかい、それでも立ち止まることなく駆けてゆく親友の後姿を見送りながら、「流石にヤバイぜ?今回は」と呟いた。甚だ不可解にも、このときの彼は笑んでいた。どういうことか。本来の彼であれば親友の難題に心配するところではないのか。それとも、心配しなくとも必ずや困難を解決してみせるだけの器量が親友には備わっているはずであると彼は確信しているのだろうか。
こんな些細なところまでもが一々気に障るのは、ドラマ全体が変であるからに他ならない。制作者は面白さに関する判断力を欠いているとしか思えない。あるいは体調でも壊しているのではないのか?と心配せざるを得なくなる。
今宵の第八話の、特に前半三十数分間の展開は常軌を逸していたが、それが先週からの継続でもあるから、見ていて救われない。千葉あやめ(川島海荷)を徹底して不幸へ陥れ続けているのは、最後に来るだろう幸福を最大化するための前提であるのか知らないが、その効果のために次から次に変な悪人を登場させては悪事を働かせるのは話の説得力を損なうことにしかなっていない。しかも、これは次週へ継続して深刻化するらしい。なにしろ、番組の最後にあった次週予告を見る限り、千葉あやめの実父までもが悪人として登場し、異常な悪事を仕掛けることになるらしいのだ。頭の体調を壊しているのではないのか?と本気で心配せざるを得なくなる。
大体、歌舞伎が全く出てこないのも余りにも変だろう。
とはいえ、良い場面もないわけではなかった。河村恭之助は殆ど常に魅力ある人物であるし、河村家の豪快な家政婦のミタである三田シズ(江波杏子)が出てくると安心できる。澤山一弥(中山優馬)が千葉あやめを慰め、励ました場面は、むしろ河村恭之助に対する彼の敬意と友情を熱く語る場面と化していて面白かった。同じ舞台に立って間近に見ながら一緒に芝居をした者の立場から、歌舞伎における河村恭之助の誠意にその全人格における誠意の表れを見たという澤山一弥の言は、今までの物語からの必然の帰結であると納得できた。
意外なところでは、澤山一弥の師である「轟屋」澤山咲五郎(榎木孝明)の令嬢の澤山優奈(吉倉あおい)と、澤山一弥と同じく「轟屋」の弟子の一人である澤山梢平(松村北斗)との間の遣り取りも、何時になく面白かった。澤山優奈を脅迫するための材料を失った澤山梢平が、それでも令嬢を我がものにしようとして、ライヴァル澤山一弥が令嬢を愛してはいないことを力説したとき、澤山優奈は、澤山一弥しか愛せないこと、換言すれば澤山梢平を愛する気にはなれないことを断言した。普段は不敵な澤山梢平も、このときは呆然と立ち尽くすのみだった。この場面は、これまで悪事を重ねてきた両名にも普通の心がないわけではないことをよく表し得ていた。