仮面ライダーウィザード第五十話

平成「仮面ライダー」第十四作「仮面ライダーウィザード」。
第五十話「大切なものは」。
サバトで人柱にされて疲労していたウィザード=操真晴人(白石隼也)は、コヨミ(奥仲麻琴)が取り戻してくれた彼独自の魔力「インフィニティ」を用いて、白い魔法使い=ワイズマン=笛木奏(池田成志)に決戦を挑んだが、奮戦空しく、ともに倒れた。互角の戦闘だったことから流石の白い魔法使いも疲労していたが、操真晴人が先に立ち上がってコヨミに歩み寄ろうとしていたのを見るや、猛然と立ち上がって操真晴人をコヨミから払い除けたが、こうしてコヨミのことのみに夢中になり過ぎて油断していたところの不意を衝かれて、ソラ(前山剛久)に倒された。
この最期が憐れであるとすれば、ソラが用いた武器が白い魔法使いの最も必要な武器であることに起因する。ソラがそれを入手し得たのは、白い魔法使いがウィザードとの決戦の前にソラを始末したときのことだった。二度目のサバトに失敗した笛木奏は三度目のサバト開催に向けて態勢を立て直すべく、必要最小限の荷物をまとめてコヨミを連れて、住み慣れた館を出てゆこうとしていたとき、ソラの襲撃を受けたが、直ちに白い魔法使いの姿へ変身して反撃し、笛であり剣でもある武器でソラの身体を衝いて、貫いて、そのまま庭の樹木へ刺した。問題は、白い魔法使いがその武器を抜き取ろうとしたとき、コヨミがどこかへ駆けてゆく姿を目撃したことにある。大急ぎ追いかけなければならないと感じて焦っていた白い魔法使いは、ソラが自身の体を貫いた武器を両手で掴んでいた所為で、その武器を抜き取ることができない状態にあったことに苛立って、諦めてしまった。これこそがソラの狙いだった。笛であり剣でもあるその武器は、白い魔法使いの最強の武器であると同時に、コヨミの身体から「賢者の石」を取り出すための道具でもあった。「賢者の石」の奪取を目論んでいるソラは先ずは何としてもその道具を奪取すべく、この決死の作戦に出たのだった。
ソラは白い魔法使いから騙し取った武器で先ずは白い魔法使いを打倒し、次いでコヨミを斬って、ついに「賢者の石」を手に入れた。換言すれば、笛木奏は、自身の計画のために利用していた手段としてのソラによって、自身の計画のために必要な武器を騙し取られ、その武器で倒された上に、計画の目的であるコヨミをも殺害され、計画の核をなす「賢者の石」をも奪われたのだ。
この物語においてウィザードは善、ファントムは悪であり、ウィザードがファントムを倒すことは勧善懲悪をなしているように見えていたが、実のところはウィザードもファントムも全て、狂気の科学者であり錬金術師である笛木奏が自身の計画のために育成した手段であり、しかるにその計画は、彼の私欲のために多大の悪事をなすものでしかなかった。ウィザードの善は、巨悪の手段でしかなかった。勧善懲悪なんか実は成立していなかったのだ。ところが、巨悪の計画は、ウィザードの仲間になったビースト=仁藤攻介(永瀬匡)によって見事に阻止され、ファントムの一員であるソラによって完全に潰された。物語を成立させていた笛木奏のコヨミ再生の計画を見る限り、善も悪も全てが空しく終わったのだ。ウィザードもファントムも殆ど無意味だった。無意味ではなかったのは、計画の外部に発生して計画の外部に留まったビーストと、計画の内部に発生して計画の外部へ出たソラだけだった。
この論理は確かに面白いが、反面、この論理で組み立てられた物語の世界を、驚く程に小さなものにしている。何と小さな、夢も希望もない物語だったことか。
ともあれ、ソラは生きているし、賢者の石はソラの手に渡ったので、ウィザードには戦後処理の仕事が残されている。それが次週の話を作るのだろう。
なお、気になる問題がある。この物語に描かれたのは笛木奏の計画の産物だったが、計画の前提であるゲートの存在は計画の産物ではなかった。人間には魔法使いになる可能性を有する者があり、ゲートと呼ばれる。ゲートが絶望したとき、ファントムが発生し、ゲートを殺害するが、ゲートが自力で絶望から立ち直り、ファントムを制御し得たとき、魔法使いになる資格を得る。魔法使いになる資格を得ても自力で魔法使いになり得るわけではなく、笛木奏の入る余地がそこにあるが、ファントムが発生すれば大抵は、笛木奏の計画とは関係なく、自ずからファントムになる。ゆえに、操真晴人の知らないところでもファントムが発生して悪事をなしている恐れがあるが、それは解決されることがないのかもしれないのだ。