仮面ライダーウィザード第五十一話

平成「仮面ライダー」第十四作「仮面ライダーウィザード」。
第五十一話「最後の希望」。
番組は次週から二週間は続くが、物語は今週で完結した。事実上の最終話だった。実に良い最終話だったが、これを可能にしたのは物語の発端を作った最大の悪役が先週の第五十話で敗退し退場したからであると見ることができる。
なぜなら善のウィザードも悪のファントムも何れも全ては狂気の科学者であり錬金術師である笛木奏(池田成志)が自身の計画のために育成した手段であり、しかるにその計画は、彼の私欲のために多大の悪事をなすものでしかなかったからだ。ウィザード=操真晴人(白石隼也)がファントムを退治すること自体は人々を救うことであり、善であるに違いないが、結局はそれも、白い魔法使い=ワイズマン=笛木奏の計画の一部でしかなかった。ゆえにウィザード=操真晴人が真の意味で善をなす者、正義の味方であるためには悪の根源である笛木奏を倒さなければならなかったはずだ。連続快楽殺人鬼だった人間「滝川ソラ」を自称する怪物グレムリン前山剛久)の手で笛木奏が殺害された今、ウィザード=操真晴人は名実ともに正義の味方になったのだ。
とはいえ事態は簡単ではなかった。コヨミ(奥仲麻琴)の死を含めた真相を先ずは受け容れ、過去を乗り越えて前進するためには決意を要した。それは巨大サバトのために新たに育成された三人のメイジも同じだった。
自ら決意してメイジ一号になることを選んだ稲森真由(中山絵梨奈)は、それが巨悪の手先になることでしかなかったという真実を受け止めた上で、巨悪が消えた今、己の力をどのように用いるか、決意を新たにしなければならなかった。メイジ二号にされた飯島譲(相馬眞大)は、敬愛する「攻介兄ちゃん」こと仁藤攻介(永瀬匡)からの助言をどのように受け止めるか、そして人々を救うために魔法を使い切って魔法を失った攻介兄ちゃんのために己に何ができるのかを自分なりに考えなければならなかった。もともと魔法使いになんかなりたくもなかったメイジ三号=山本昌宏(川口真五)は、家族を守るために己にできるのが何であるのかを選ばなければならなかった。
ウィザードと三人のメイジがそれぞれ決意を新たにして集結する場面へ向けて物語が興奮を増していったのは見事だった。グレムリンの手先の怪物軍団が人々を無差別に襲撃し始めたとき、警視庁刑事の大門凜子(高山侑子)は拳銃で応戦して人々を避難させ、大門凛子を襲撃しようとした怪物軍団には、奈良瞬平(戸塚純貴)が工事現場の三角コーンで応戦して救出した。直前の場面では大勢の人々を追いかける怪物軍団に、彼が工事現場のロープを用いて罠にして、足を引っ掛けて次々倒してみせる活躍もあった。今回以上に奈良瞬平が颯爽と活躍したことはなかった。
それでも大門凛子と奈良瞬平は怪物軍団に追い詰められ包囲されたが、そこへ駆けつけたのが、今朝の話における一番のヒーロー、仁藤攻介だった。
牛若丸のように怪物軍団をはるか飛び越えて参上した彼は、怪物から素早く槍を奪い、槍を振り回して怪物集団を撃退し、両名を率いて退避した。このとき彼はなぜか大門凛子ではなく奈良瞬平の手を引いて逃げたが、多分、大門凛子の判断力には心配は無用であると信頼しているのだろう。
この場面に先立って、この戦闘の開始を告げたグレムリンによるドーナツ店の襲撃の際にも、仁藤攻介は生身のままグレムリンに立ち向かう勇気を見せた。たとえ変身能力を喪失しようとも構わず敵に立ち向かう仁藤攻介は、最もヒーローらしいヒーローであり、今朝の話で最も輝いていた。
これには永瀬匡のアクション能力の高さも活かされたのだろう。福士蒼汰(「仮面ライダーフォーゼ」)は研音MEN ON STYLE」における永瀬匡がダンスのリーダーであることを述べていたが、アイドルのバックダンサーとして鍛えた身体能力がヒーローのアクションにも活きたのではないだろうか。
ドーナツ店を破壊された店長(KABA.ちゃん)が、混乱の中で仁藤攻介に抱き着いたのは、助けを求めたというよりは格好よい男子に抱き着いてみたかったからだろうか。しかし店長と店員(田谷野亮)が並んで座して操真晴人のことを話題にしていた様子には永年連れ添った夫婦のような趣があった。
怪物の大群衆に包囲されて、流石の仁藤攻介、大門凛子、奈良瞬平も絶体絶命かと思われた瞬間、颯爽と現れた稲森真由、飯島譲、そして山本昌宏。魔法使いにもコヨミにも大して縁もない山本昌宏が、事態の恐ろしさに脚の震えを感じながらも、愛する家族を守るために立ち上がった姿には、涙を誘うものがあった。
しかし何と云っても輝いていたのは少年、飯島譲と仁藤攻介との友情の篤さ。改めて魔法使いとして現れた飯島譲を見て仁藤攻介は、弟のような友をこんな苦しい目に遭わせるのを辛く思ったに相違なく、複雑な表情だったが、飯島譲は「攻介兄ちゃんだけに無理はさせない。今度は僕が勝手にみんなを守る番だ」と宣言した。
稲森真由、飯島譲、山本昌宏が三人並んでメイジに変身するとき、稲森真由だけは何時ものように一回転するのかと期待したが、結局、回転しなかった。変な動作に見えるので自粛したのだろうか。むしろ三人揃って回転しても面白かったのに。
怪物集団を撃破した三人に報復を仕掛けたグレムリンは、三人から魔力を強奪しようと企んだが、これはコヨミに止めを刺したときのように白い魔法使いの笛の剣で切ることを含意していたのだろう。そう察した仁藤攻介は、飯島譲を守るため、直ぐに立ち上がり、グレムリンに立ち向かった。仁藤攻介は常に格好よかった。
この最も重要な局面に現れるのはウィザード=操真晴人でなければならない。最強の魔法石「賢者の石」を胸中に蔵して強化されたグレムリンは強かったが、ウィザードは止めを刺されようとした瞬間、右手でグレムリンの腹を打ち、力を込めてその腹の内へ手を入れ、そこへ自身の胸中のドラゴンを解き放った。ドラゴンは、己の力を操真晴人が誰かのためではなく自分自身のために使おうとするのは初めてであると認めてそれを面白がり、操真晴人の心を己の背に騎乗させてグレムリンの胸中へ駆け、そこに幽閉されていたコヨミを救出した。その瞬間、「コヨミの心」である賢者の石は操真晴人の右手に輝くピンク色の指輪へ昇華した。
賢者の石を奪還されたグレムリンは本来のみすぼらしい姿に戻り、さらに賢者の石を取り戻したウィザードと四匹のドラゴンによって止めを刺されて、人間「滝川空」から引き継いだソラの姿へ戻った。これはグレムリン=ソラを、あたかも人間であるかのように見せかける。だが、滝川空という人間は連続快楽殺人鬼だった。確かに人間という生物ではあっても、大概の人間の常識はそのような人間を人間とは認めない。既に人間の心を失っていた彼は、グレムリンというファントムと化してもなお、ファントムに身体を乗っ取られはしなかった。それは彼が化物を凌ぐ化物だったことを物語る。そして彼はファントムと化してのちも冷酷な行為を重ね、敵も味方も等しく撹乱したのみか、ついには笛木奏を殺害し、コヨミを殺害して賢者の石を盗み、笛木奏に倣い、サバトを開こうとして無差別テロリズムにまで走っていた。どんな化物も彼には劣る。今や笛木奏の狂気をも超えた。だから操真晴人は消えゆくグレムリンに告げた。「人の心をなくしたおまえは、人じゃないだろ?」と。
後日談も味わい深かった。
ドーナツ店を破壊された店長と店員は公園でドーナツ販売を始め、繁盛していた。操真晴人は何時ものようにプレインシュガーのドーナツを買い、コヨミの分として初めてそれ以外の商品をも買い上げた。山本昌宏は妻と新たに生まれた子供と三人一緒に平穏な生活に戻った。奈良瞬平は面影堂で輪島繁(小倉久寛)の弟子にしてもらい、魔法石の指輪を作るための修業を始めた。絶望したゲートがファントムになる以上、ファントムとの闘いは実は終わってはいない。国家安全局〇課でファントム捜査を続ける大門凛子は上司の木崎警視(川野直輝)に操真晴人の後任として稲森真由を紹介した。ここに鳥居坂警察署長(小宮孝泰)までもが便乗しようとしたが、木崎警視は大門凛子に命じて彼を追い返した。稲森真由は姉をファントムにされて両親も殺害され、天涯孤独の中、自身も魔法使いにさせられて、笛木奏の計画における最大の被害者だったと云うも過言ではないが、こうして居場所を見付けだすことができたのは幸いだった。
仁藤攻介は、逃げたキマイラについて探究してみたいと思い、キマイラを探索する冒険旅行に出ることにした。ただし「土日限定」の。なぜならこの冒険旅行には中学生の飯島譲も同行するからだ。近所にテントを張ってバーベキューをして寝食をともにする二人は少し歳の離れた兄弟のようだった。
こうして皆がそれぞれ日常へ帰った中、操真晴人はコヨミの心の結晶である賢者の石を守るため、どこか遠くへ旅立った。バイクに乗って走り去る操真晴人の後姿は「仮面ライダー」の最終話の最終場面には実に相応しかった。
そして来週から二週間は、平成「仮面ライダー」第十四作である「仮面ライダーウィザード」の完結を寿ぐとともに第十五作である「仮面ライダー鎧武」の始まりを告げるための特別編。あの全てを破壊する通りすがりの仮面ライダーディケイドをはじめ、この十五年間を彩った十五人の仮面ライダーが大集合する模様。