仮面ライダーウィザード第五十二話

平成「仮面ライダー」第十四作「仮面ライダーウィザード」。
第五十二話「仮面ライダーの指輪」。
ウィザードの物語は先週の第五十一話で完結したから、今週から次週にかけて放映される第五十二話と第五十三話が番外編でしかあり得ないのは自明。最終回が番外編の後半でしかないところにウィザード物語の不幸がある。それでも楽しく盛り上がる最終回になるかどうかは番外編の話の出来栄えで決まる。前半は期待した程には面白くもなかったのだが、後半で挽回できるのだろうか。
話の舞台は、謎の黄色い魔法石の内部の世界。
そこは今までの十四の仮面ライダー物語の世界で退治された怪物等が封印された世界。現実世界の人々によく似た人々がそこに居住しているが、現実世界に比べると大いに老けていたり、大いに若返っていたりして年齢が異なるし、立場も同じではない。例えば現実世界で操真晴人(白石隼也)がプレインシュガーのドーナツの美味を愛していたドーナツ店の、店長(KABA.ちゃん)と店員(田谷野亮)は、魔法石の内部の世界では農業を営んで立派な古民家に住んでいる老夫婦。姓は堂夏。大門凜子(高山侑子)と奈良瞬平(戸塚純貴)は不良高校生とその子分。輪島繁(小倉久寛)だけは面影堂主人で何も変わらないが、面影堂が山奥にある。
仁藤攻介(永瀬匡)もいるが、この世界の人間ではなく、操真晴人と同じく現実世界から来ていた。操真晴人が謎の黄色い魔宝石から聞こえる少年と少女の悲鳴に反応してその内部へ引き込まれたのは、白い魔法使いとグレムリンを退治し終えて希望の魔法石を守るため旅立ったあとのことだったのに対し、仁藤攻介が同じように悲鳴を聞いて反応したのは、巨大サバトよりも前の、次々発生するファントムを退治していた時期のこと。ゆえにここにいる仁藤攻介はビーストに変身することができる。
この世界では、殆ど全ての人間が成長すると同時に怪物になる。普段は人間の姿をしているが、いつでも怪物に変身して暴れることができる。しかし暴れるのを止めて人間の姿に戻ることも全て意の如くであるらしい。奇妙なことに、大人になっても怪物に変身できない人々もいる。大門凛子と奈良瞬平と輪島繁がそうで、彼等と親しく接してきた謎の少年(竜跳)と少女「コヨミ」(SALA)は間もなく怪物に変わろうとしているようだが、親しく接する大人たちが人間であり続けるのを見てきた所為か変身を嫌がり、この世界を脱出して魔宝石の外の世界へ逃亡しようとしている。両名の最初に逃げ込んだ先が堂夏家だったことから考えて、堂夏家の老夫婦も怪物に変身しない人々だったのかもしれない。
謎の少年と少女コヨミが逃げ回っているのは、この世界を破壊し得る力を持つらしい十三の仮面ライダーの指輪を盗んだからだった。両名は魔宝石の外へ脱出するためにその力を使用したいようだが、その力は魔宝石の内部の世界へ封印されている怪物を全て魔宝石の外へ解放し、魔宝石の外にある現実世界を破壊することにも繋がるらしい。ここにいる怪物は皆、十三の仮面ライダーによって打倒されたあと、仮面ライダーの指輪、「ライダーリング」の力で魔法石の内部のこの世界に永遠に封印されているが、地球がこの世界の中天に来たとき、ライダーリングで解放を祈る者があれば、封印は解かれ、この世界は崩壊し、解放された怪物が現実世界に溢れる事態に至る。この世界は怪物の楽園であり、ゆえに怪物も大人しいが、地球へ戻れば、再び悪事を働くことになると云うのだ。最悪の事態だ。それを避けるために怪物は皆で謎の少年と少女コヨミを追いかけ回し、盗まれたライダーリングを取り戻そうとしているようだ。
だが、この世界の設定は全て「この世界の主」であるアマダム(田口トモロヲ)によって語られたに過ぎない。全てが真実である保証はない。
もっと重要なことは、この世界の設定において、この世界は現実世界から隔離された異世界であると語られていることだ。この世界を超える世界の存在が前提されている。現実世界において悪であり、ゆえに現実世界から消去されたものが、この世界に集められていて、ゆえにこの世界の中ではそれは必ずしも悪ではないが、現実世界へ戻れば再び悪に戻ると想定されている。換言すれば倒錯の世界、空虚の世界であるとの自覚がある。真実も正義も語りようのない世界であるとも云える。
このことには重要な含意がある。この世界は怪物の世界であり、怪物は普通の住人、「市民」であるが、この世界それ自体が倒錯の世界であり、現実世界から追放された虚偽の世界でしかない。そして現実世界の存在は、この世界の住人の知るところでもあり、換言すれば、この世界が倒錯の世界であることをこの世界の住人も知っている。従って、ウィザード=操真晴人やビースト=仁藤攻介や、両名と同じく少年と少女の悲鳴に反応して魔法石の内部へ呼び込まれた十五人目の仮面ライダーである仮面ライダー鎧武=葛葉絃汰(佐野岳)がこの世界の怪物を退治したとしても、それは決して無辜の民を虐待したことにはならないと解される。
それにしても、仁藤攻介の社交性は素晴らしい。この世界に来て早速、アマダムや怪物とも親しくなり、怪物にバーベキューを焼かせて寛いでいた。
ライダーリングの力で出現した仮面ライダー集団の内、仮面ライダーW仮面ライダーフォーゼが仲良く、仮面ライダー555仮面ライダーカブトが一緒に行動していた。仮面ライダーディケイド=門矢士(井上正大)は早速「大体わかった」様子で、十三人の中で彼だけは本物の気配をただよわせていた。