仮面ライダー鎧武第七話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第七話「大玉スイカ、ビッグバン!」。
この話の後半。アーマードライダー鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)は、アーマードライダー龍玄=呉島光実(高杉真宙)が盗んで得たスイカのロックシードを用いて巨大化した。ロックシードを開いてからスイカの「大玉」が出現し、大玉のまま転がってインベスの群を薙ぎ倒したのち、巨大なスイカアームズに変貌するまでの展開は、大勢の登場人物それぞれに面白い言動が数多あって実に見応えがあった。
しかも面白い要素は前半にも多かった。例えば、アーマードライダーブラーボ=鳳蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)に叩きのめされていたアーマードライダー黒影=初瀬亮二(白又敦)が相棒のアーマードライダーグリドン=城乃内秀保(松田凌)に助けを求めたとき、物陰に隠れていた城乃内秀保はグリドンと呼ばれるのを嫌がっていた。戦闘よりも自身の名前を嫌がっていたのだ。初瀬亮二と城乃内秀保が敗走したあと、一部始終を見物していた葛葉紘汰は鳳蓮・ピエール・アルフォンゾに、勝てると判り切っている相手を叩きのめすのは良くない!と文句を云っていた。この言に初瀬亮二と城乃内秀保は却って傷付くかもしれない。
フルーツパフェの店「ドルーパーズ」の店内で、葛葉紘汰と高司舞(志田友美)が店長の阪東清治郎(弓削智久)を相手に鳳蓮について語り合っていたのを聞いていた駆紋戒斗(小林豊)が、力こそが全てであるという己の思想を語り、アーマードライダーバロンの強さを誇り、鎧武の弱腰を馬鹿にしながら店を出ようとしたとき、レジ係の若い女子が急に休憩を取ると宣言して離れて店を出て、慌てて店長がレジで代金を受け取り釣銭を出したのも、実に不可解で面白い場面だった。
駆紋戒斗は普段から恐ろしげな服装をして、難しげで偉そうな言動をして、いかにも大物のような気配をただよわせてはいるが、それでもなお、店で珈琲を飲めば代金を支払って釣銭を受け取るという庶民の振る舞いを免れるわけではない…という厳しい現実を、この場面は表しているのだろうか。
厳しい現実の面白さは他にもあった。沢芽市内に巨大な常緑樹のような城を築いている大企業ユグドラシルの内部の一室。ドリアンのロックシードを用いる鳳蓮の正体について錠前ディーラーのシド(浪岡一喜)から報告を受けた呉島貴虎(久保田悠来)は、戦闘の「プロ」がインベスゲームに参戦したことの危険性を指摘してシドの責任を追及しようとしたが、そこへテレヴィ電話で加わったDJサガラ(山口智充)は、スイカのロックシードを紛失した件で「呉島主任」に反撃した。いかにも小馬鹿にしたような口調で。しかも、「プロフェッサー凌馬」と呼ばれる謎の人物、戦極凌馬(青木玄徳)も、シドとDJサガラに味方したのだ。呉島貴虎の立場の意外な弱さが表れていた。
この会議から見えることは幾つかあった。シドがインベスゲームのインフラとも云うべきロックシードや戦極ドライバーの流通を任されているのに対し、DJサガラはインベスゲームに関する世間の「情報統制」を任されているということ。予て想像されていたことだが、ここで事実として確定したのだ。両名が呉島貴虎から指示を受けて働いているのと同時に、呉島貴虎に屈従するわけでもないのを見れば、両名が呉島貴虎の属する組織に属してはいないのも明らかだろう。シドとDJサガラはユグドラシルから厄介な仕事を委託された業者であるに相違ない。同じように、プロフェッサー凌馬もユグドラシルから研究資金を提供された外部の者であるのかもしれない。業者も教授も、大企業から業務を委託される点では同じ立場にあるはずだが、大企業側の態度が業者と教授では違ってくる。呉島貴虎の場合、己の大失態に加えて、業者と教授が結託してしまった結果、両方から馬鹿にされる事態に至ったと見ることができる。
ケーキの謎についても考えておく意味がある。アーマードライダーバロンを倒したアーマードライダーブラーボをアーマードライダー鎧武が倒した結果、ダンス集団「鎧武」が単独首位に返り咲いたのを祝して「鎧武」の皆で祝賀会を開こうとしていたとき、遅刻していた高司舞が大きなケーキを抱えて入ってきた。それが鳳蓮・ピエール・アルフォンゾの店「シャルモン」のケーキだったことから葛葉紘汰は文句を云っていたが、最高に美味なケーキの差し入れに他の皆は大いに喜び、盛り上がっていた。だが、シャルモンのケーキは大人気であるのみならず極めて高価でもあり、ショートケーキでさえ気軽には買えない程の、高嶺の花ではなかったのか。そうであるなら、この盛大に豪勢なケーキは、鳳蓮・ピエール・アルフォンゾから「ダサ男くん」=葛葉紘汰への贈物である可能性が出てくる。
鳳蓮・ピエール・アルフォンゾは「血に飢えた観客」のために最高のエンターテインメントを提供したい!と宣言していたが、なるほど、今回の話では特に、インベスゲームの見物人は「血に飢えた観客」の様相を呈していた。ユグドラシル支配下の地方都市で閉塞状況を生きる大衆の鬱屈を表しているのだろうか。