仮面ライダー鎧武第十一話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第十一話「クリスマスゲームの真実」。
今回が今年最後の放送。来年の秋まで続くはずの物語の約三分の一まで終えた地点で、物語は大きく動き始めたのと同時に、一つの終わりを見た。「仮面ライダー」は戦闘を描く物語だが、この物語が今まで描いてきたのは表向きはゲームであって、戦争ではなかった。しかしゲームが、無邪気で無益であるかのように装われながらも本当は極めて危険な本質を秘めているのは明白だったし、繰り返し描かれ、強調されていた。しかしゲームは破綻した。規制は崩壊し、闘争は解放されるだろう。真相が露呈したからだ。
物語を大きく動かした起動因は、予て「インベスゲーム」という奇妙なゲーム自体に淡い疑問を抱いてもいたアーマードライダー鎧武の葛葉紘汰(佐野岳)の、ゲームの道具や生産元に関する疑問の深まりであり、その疑問を解決するための策として新たなゲームを提案したアーマードライダー龍玄の呉島光実(高杉真宙)の、策の破綻と目的の達成だった。
呉島光実の策の行方を観察しなければならない。最初にヘルヘイムの森に到着したアーマードライダーバロン=駆紋戒斗(小林豊)はゲームの規則に忠実に従い、ヘルヘイムの森の果樹であるロックシードの収穫に邁進していたが、アーマードライダー黒影=初瀬亮二(白又敦)はそこに不意打ちを仕掛けて返り討ちに遭っていた。どうやら彼はロックシードの収穫よりも強敵の打倒ばかりを狙っていたらしい。しかるにそこへアーマードライダーブラーボ=鳳蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)が参戦して先ずは黒影を撃退し、次いでバロンのバナナを剥いて裸にしようと企てた。ロックシードを数多く集めた者を勝者にするはずのゲームの趣旨を忘れたかのように喧嘩を繰り広げる彼等の馬鹿さ加減を笑いながらアーマードライダーグリドン=城乃内秀保(松田凌)はロックシード収集に励もうとしていたが、生憎、インベスに襲われていた。
頑張ってインベスを二体も撃退して安心していたグリドン。そこにアーマードライダー斬月=呉島貴虎(久保田悠来)が出現した。斬月は瞬時にグリドンを倒し、配下の警備隊に命じてクラックの外へ強制送還させた。一部始終を木の上から観察していた葛葉紘汰は、謎の調査隊の「拠点」を探るべく、警備隊を尾行した。
警備隊の目的地には大きなクラックがあり、彼等はその外へグリドンを運んで行った。クラックの近くにはテントが複数あり、中で調査隊員が働いていた。幸い、警備隊の制服が一着、テントの中でハンガーに掛けてあるのが見えたので葛葉紘汰は人目を盗んで制服を盗み、着用して警備隊の新人になり済まし、調査隊員に接近した。テントの中には大量のロックシードがあり、調査隊員が見ているモニターには、斬月の勇姿が映っていた。斬月は「主任」と呼ばれていた。
斬月は、次にバロンとブラーボに狙いを定めた。「この森で余りはしゃいでもらっては困る」と告げてバロンを撃退した斬月は、その強さと美しさに一目惚れをして見惚れていたブラーボをも軽く撃退した。葛葉紘汰はその様子を調査隊員と一緒にモニターで見ていた。この物語において戦闘は常に観察されてきた。インベスゲームやアーマードライダー同士の対戦は観衆を集めて行われ、その場にいない人々もDJサガラ(山口智充)の発信するインターネット番組で観戦してきた。葛葉紘汰も、DJサガラの番組で龍玄の存在を知ったのだ。だからこそブラーボのように、戦闘は鑑賞するに値する美を具えるべきであると主張する者も出てきた。だが、無邪気な観衆の外側にも観察者がいた。無邪気な若者たちを「モルモット」として利用した壮大な実験を、冷酷に、非情に、淡々と観察する者たちがいた。その姿を、葛葉紘汰は見ていた。
調査隊員はモニターに映るアーマードライダーを「モルモット」と呼んでいた。その語に驚いた葛葉紘汰はその語の意味を聴いた。調査隊員は「ガキどものことさ。奴等、ロックシードなんて餌を与えたら直ぐに飛び付きやがった。全てユグドラシルが計画した実験とも知らずにな」と説明した。不意に明かされた真相に驚いた葛葉紘汰は、インベスゲームも実験の一部だったのかを聴いた。調査隊員は「決まってんだろ。ユグドラシルの計画の一部さ。おかげでガキどもは何の疑いもなく戦極ドライバーに手を出した」と説明した。新人相手に丁寧に説明してくれる点では妙に親切ではあるが、ビートライダーズと呼ばれる沢芽市の若者たちを心から嘲っていることが窺える。
その頃、沢芽市内のフルーツパフェの店「ドルーパーズ」の奥の、クリスマスらしく飾り付けられている割には閑散として寂しい個室では、錠前ディーラーのシド(浪岡一喜)が、ヘルヘイムの森で発生しているはずのゲームの破綻を思いながら、この実験が、力の強さに憧れる若者たちの無邪気な自然本性を悪用して成立していたこと、分別ある大人であれば騙されはしなかったろうことを省みて笑っていた。
調査隊のテントで葛葉紘汰が真相を知った場面が秀逸であるのは、インベスゲームの世界における観察の二重構造を像として描いたのに加えて、彼が成長の中途にあることの意味を想起させる点においてでもある。もともと彼は早く大人になりたいと願望してビートライダーズから足を洗っていたが、仲間たちが困っているのを見て、助けたいと願い、結局はビートライダーズに戻ってしまった。大人になれなかった「ガキ」ではあるが、大人になりたいと願望する程度には分別を具えていて、インベスゲームに対してはもともと違和感を抱いていた。中途半端ではあるが、大人とガキとをともに知り得るとも云える。そんな彼が今、大人の世界からガキの世界を観察する場に居合わせて、ガキのゲームを支配する悪意の存在を知らされたのだ。
物語は認知を契機に逆転する。モニターの映像では今、「主任」が龍玄に狙いを定めていた。恐ろしい真相を知って打ちのめされていた葛葉紘汰も、大切な友である呉島光実が恐ろしい斬月に襲われそうになっているのを見れば救出に向かわずにはいられない。慌ててテントを飛び出したところで、異変の発生を目の当たりにした。各種インベスの大群がテントを襲撃し、調査隊や警備隊が逃げ惑っていたのだ。こうなれば友の救出よりも先ずは彼等を助けなければならない。葛葉紘汰がそういう人物であることは第一話から繰り返し描かれてきた。ビートライダーズの「ガキども」を嘲っていた調査隊員が、当の「ガキども」の一人であるアーマードライダー鎧武=葛葉紘汰に助けを求めてきたのは何とも皮肉な事態だった。
同じとき、斬月は龍玄を鮮やかに倒そうとしていたが、同時に、龍玄の戦い方が妙であることに気付いていた。敵を倒そうとするよりはむしろ敵の出方を窺うような、まるで「観察」するような行動を繰り返していることに気付いていた。ここには第三の観察があった。龍玄=呉島光実は、「白いアーマードライダー」、斬月の正体が兄の呉島貴虎であるのかどうかを探りたかったのだ。斬月もまた、龍玄に他とは違う何かを感じ、倒してクラックの外に連れ出した上で正体を探ろうと考えたらしい。いよいよ龍玄に止めを刺して眠らせようとした瞬間、運悪く、しかし龍玄にとっては幸いにも、調査隊からインベスの大群の襲来について連絡があった。救援に向かうべく龍玄を放置して走り出したとき、運悪く、黒影が参戦してきた。斬月にとっても黒影にとっても運が悪かったと云わざるを得ない。斬月は黒影を倒したが、執拗な黒影に手を焼いた末に、黒影の戦極ドライバーを破壊してしまったからだ。しかも救援活動に出遅れた結果、ヘルヘイムの森における救援活動を図らずも鎧武に完全に任せる格好になってしまった上、ユグドラシル本社の中枢にまでも侵入を許してしまったからだ。
だが、龍玄は敗れていたが、呉島光実は重要な成果を獲得した。黒影を倒した斬月が「四人目のモルモット」の回収を警備隊に命じたものの、四十体ものインベスの大群に襲われていた警備隊が全く応答できないでいたとき、無反応に苛立った斬月は「呉島だ」と名乗って応答を待った。呉島光実はそれを聞き逃さなかった。白いアーマードライダーの正体が兄であることを確かめることができた。
同じとき、インベスの大群に手を焼いた鎧武は、テントに転がっていたスイカのロックシードを借りて強大化し、インベスを追撃してクラックの外へ飛んだ。クラックの外には奇妙な研究室があり、そこへ退避していた調査隊員は「主任!インベスは屋上です」と報告した。スイカアームズで戦う勇敢なアーマードライダーを、人々は斬月と勘違いしていたようだ。云われた通りに屋上へ出た鎧武は、そこが沢芽市の中心に聳える巨大な城、「ユグドラシルタワー」だったことを知った。
「ここからは俺のステージだ!」。
非常事態を想定して「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)が配備しておいた「空間偽装装置」が起動され、ユグドラシルタワーの上空に設定された空間の枠の中で、インベスの大群を相手に鎧武が繰り広げた戦闘、奮闘は、勇敢で、必死で、痛快そのもので、今年最後の放送の後半を飾るに相応しい見所だった。
もっとも面白かったのはその直後。プロフェッサー凌馬の後方支援も得て見事にインベスを撃破した鎧武の活躍に、研究室内の調査隊員たちは大いに助かって安心しつつ、「流石、呉島主任だ」と云って讃えていたが、そこへ当の呉島貴虎が戻ってきたのだ。実に、ばつの悪そうな、あるいは驚いたような顔をしていた調査隊員たち。呉島貴虎の「まさか、屑に部下を助けられるとは」という怒りも空しい。そのとき屋上では鎧武が戦勝を喜んで舞っていた。
ヘルヘイムの森では、混乱のおかげでクラックの外に強制送還されることのなかった龍玄が漸くユグドラシルのベースキャンプにたどり着き、放置されていた二百十三個のロックシードを一挙に獲得した。
こうして今回のゲームはダンス集団「鎧武」の圧勝に終わったわけだが、もともと葛葉紘汰と呉島光実の真の狙いは勝つこと自体にはなかったし、ゲームの真相を知ってしまった葛葉紘汰は、もはや踊らされようとは思わなかった。
クリスマスらしく華やかに飾られているにもかかわらず客一人もなく閑散として、不気味に寂しく寒々しいフルーツパフェの店「ドルーパーズ」の奥の個室へ、段ボール箱に詰め込んで満杯のロックシードを抱えてきた葛葉紘汰に、シドは「毎度あり!良い取引だった。また頼むよ」と愛想よく笑ったが、怒りに震える葛葉紘汰は「俺たちはあんたらの思い通りにはならない!今日はそれを伝えに来た」とだけ告げて、「ミッチ」と一緒に去った。しかし「ミッチ」こと呉島光実は、シドを上手いこと利用してきた立場にあるからか、あるいはシドを利用して実験をしていたのが他ならぬ実の兄であることを知ってしまったからか、そんなに怒っていたわけでもなさそうだった。
ちなみに今回の「新ゲーム」で各アーマードライダーの獲得したロックシードは、鎧武の龍玄が二百十三個、バロンのバロンが八個、インヴィットのグリドンが三個で、無所属のブラーボとレイドワイルドの黒影は〇個。この結果、鎧武は今まで通り「王者の風格」で第一位を維持したが、「孤軍奮闘」のバロンは第四位に転落。「スーパーメガネ解禁!」のインヴィットは第五位にとどまったが、レイドワイルドは第六位に落ちて「万事休す!」。「新メンバー加入!」の蒼天と、「新曲ダンス猛レッスン中!」のポップアップが第二位と第三位に上昇した。
だが、このようなゲームが呑気に続くとも思えない。怒る葛葉紘汰を見送ったあと、シドは「そろそろ店じまいか」と呟いた。
そしてダンス集団「鎧武」がクリスマスのイヴェントを盛大に開催する様子を流しながら今回の、今年最後の話は結ばれるわけだが、ここに、葛葉紘汰の、あとから回想したかのような、長い独白が来た。今後の激動を予告するものである以上、全て書き出しておく価値がある。

今にして思えば、あのときはもう全ての歯車は回り始めていたんだろう。でも俺たちはまだ何も気付いちゃいなかった。その先に続く運命を、既に選んでしまっていたことを。何かを成し遂げられる力が欲しいと、そうすれば大人になれると俺たちの誰もが願っていた。でも大人ってのは、なろうと思ってなるものじゃない。ただ子供でいられなくなるだけのことだったんだ。やがて始まる果てしない戦いの中で、俺たちはそれを思い知ることになる。