仮面ライダー鎧武第二十七話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第二十七話「真実を知る時」。
前回の話の結末が冒頭にあった。鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)がオーバーロードとの付き合い方をめぐってバロン=駆紋戒斗(小林豊)と喧嘩して、カチドキアームズに変身しようとしていたとき、その一瞬の隙を捉えて龍玄=呉島光実(高杉真宙)は狙撃した。狙撃手の姿を認識したバロン=駆紋戒斗は迅速にその場を離れ、その場へ到着した龍玄=呉島光実は、変身を解かれて倒れている葛葉紘汰に止めを刺そうとしたが、バロン=駆紋戒斗によって阻止された。
能天気な葛葉紘汰は、身近な呉島光実の敵意には全く気付いていなかった。彼等と行動を別にしている駆紋戒斗が気付かなかったのは当然だろう。なぜ葛葉紘汰を攻撃するのか?と呉島光実に詰問したが、対する呉島光実は、いつも駆紋戒斗の邪魔をする葛葉紘汰を抹殺することは駆紋戒斗の利益にもなるのではないのか?と呼びかけた。卑劣な取引を求めたのだ。質問に答えないで代わりに取引を持ちかけるところに卑劣な思考が表れている。駆紋戒斗が高潔の士だったことで葛葉紘汰は救われた。「この男は邪魔者ではあっても敵ではない。俺の敵とは、強い者を背中から撃つような奴だ」。強さを求める駆紋戒斗は葛葉紘汰を「強い者」と認め、真の意味における同志と見ているのだろう。
葛葉紘汰は、もう一人、大切な同志を見出した。ユグドラシルの幹部、呉島貴虎(久保田悠来)に他ならない。
ヘルヘイムの森におけるユグドラシルの出張所に赤いオーバーロードが出現したことで、ついに呉島貴虎はその存在に気付いた。そして葛葉紘汰から事情を教えられたことで、その存在が世界を破滅から救い出し得ることを理解した。
ヘルヘイムの森による世界の侵食に対処するためのユグドラシルのアーク計画は人類の七分の一の削減を前提していて、ユグドラシルは世界中の支社を通じてその計画を十年後に向けて順調に推進しているが、計画の責任者である呉島貴虎は胸を痛めていた。人類の救済のためにアーク計画が必然であり、しかるに計画の前提が人類の削減であるとすれば、せめて削減の規模を少しでも縮小できないだろうか?と彼は考えていた。
そうした中で今、アーク計画そのものの必要性をも否定し得る事実を掴み得た。しかも邪魔者かと見えていた葛葉紘汰こそは、既にその事実を把握して、アーク計画に代わる世界救済の道を求めて動いていたことをも知ったのだ。葛葉紘汰と手を携えれば絶望を脱却できる。呉島貴虎は己の名が「貴虎」であることを名乗り(しかし「呉島」姓を名乗らなかったが)、「絶望以外の選択肢をもたらしてくれたこと」について葛葉紘汰に感謝した。
葛葉紘汰と呉島貴虎との和解と提携。それは視聴者にとっては待望の展開だが、私利私欲のためにユグドラシルに寄生する「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)、湊耀子(佃井皆美)、シド(浪岡一喜)の三人にとっては、何としても避けたかったはずの最悪の展開に他ならない。
今回の話で興味深かったのは、呉島貴虎と戦極凌馬の過去が描かれたことだ。ヘルヘイムの森による浸食という危機に対処するため、ユグドラシルの研究所においてアーマードライダーの開発に邁進し始めていた頃、呉島貴虎は戦極凌馬の研究開発能力を心から信頼していたし、戦極凌馬も呉島貴虎のために尽力していた。しかし呉島貴虎の関心事はどこまでも人類の救済であり、そのためのアーク計画にあったが、対する戦極凌馬は既にオーバーロードの存在を探り当て、その力の謎を解明することで「神」の如き力を獲得すること、世界を支配することを願望し始めていた。実のところ戦極凌馬は「神」の如き力の担い手として呉島貴虎を想定していたようだが、呉島貴虎の関心がその種の野心にはなく、人類の救済にしかないことを知って深く失望せざるを得なかった。以後の戦極凌馬は、呉島貴虎に表向きは従いながらも裏切って、寄生して利用してゆくことを決意した。裏切り者だけで同盟し、オーバーロードに関する知見を仲間内だけで共有しつつ、呉島貴虎の本当に望んでいるような研究(例えば救済の規模の拡大のためのアーマードライダー量産化の拡大についての研究)の依頼には一切応じないことにしたのだ。
呉島貴虎と葛葉紘汰が手を結んでオーバーロードの力による世界の救済を試みることは、戦極凌馬と湊耀子とシドの陰謀を未然に挫くに相違ない。卑劣な戦極凌馬と湊耀子とシドが葛葉紘汰と呉島貴虎の妨害、抹殺を企てるのは必然だろう。早速、シグルド=シドが出動したが、結果は次週に描かれるのだろう。
今回の話の前半では、葛葉紘汰が呉島光実に裏切られ、後半では、呉島貴虎が戦極凌馬に裏切られた。しかし呉島光実はもともと葛葉紘汰を敬愛していたし、戦極凌馬はもともと呉島貴虎を信頼し、期待し、大切に思っていた。そして葛葉紘汰が呉島光実から殺したい程に恨まれていることに今なお気付いていないのと同じように、呉島貴虎も、戦極凌馬に裏切られながらも利用されるだけ利用されていることに今のところは気付いていない。葛葉紘汰と呉島貴虎の二人、呉島光実と戦極凌馬の二人がそれぞれ似た者同士として描かれ、対比されていたと見ることができる。
さらに面白いことに、葛葉紘汰は、話し合いに応じようとはしない赤いオーバーロードの頑なな態度に接して「おまえ、さては戒斗と似た者同士だろ?」と云い放った。しかも赤いオーバーロードは駆紋戒斗を「赤い奴」と呼んでいた。赤いオーバーロードと駆紋戒斗も似た者同士だったのだ。
忘れてはならないのは、「シャルモンのオッサン」こと凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)の結末。
第二十五話において城乃内秀保(松田凌)から事態の変化と新事実を教えられた彼は、真相を知るべく街中に開いたクラックからヘルヘイムの森に潜入していた。その後どうなったのか。実は、森に入ったあと道に迷っていたのだ。入口になったクラックは見当たらず、森は果てしなく広がっていて街も家も人もなく、何もない中を彷徨い、疲労していた。空腹に苦しみながら奇妙な果実を発見した。無論それはヘルヘイムの果実。それを食べてしまうのか?と思われたが、幸い、食べなかった。どんなに空腹であろうとも、得体の知れないものを食べてはならない!という軍人の知を思い出したからだった。流石であるとしか云いようがない。そのとき、葛葉紘汰と遭遇した。葛葉紘汰からオニギリを差し出されて一瞬は喜びながらも、こんな安いもので契約するつもり?と拒否したが、結局はオニギリをもらい受けて食べていた。食べながら、出口はユグドラシルにあることを葛葉紘汰から聞くや、そこには「白く麗しいメロンの君」がいるのではないか?と興奮し、挙句の果てには葛葉紘汰を恋敵と勘違いして大変だったが、戦闘が始まれば流石に頼もしく、呉島貴虎の命令に従って大いに奮闘した。