ブラックプレジデント第十話

関西テレビブラック・プレジデント」第十話。
先週の第九話の大迫力からは一転、今週のは緩い話だったが、今までの物語の延長上に見るとき意表を突く面白さがあったのも確かだろう。なにしろ、この物語の主人公であるブラック企業のブラック経営者…と云われている「トレスフィールズインターナショナル」の筆頭株主であり社長でもある三田村幸雄(沢村一樹)が、不意に仏教に関心を抱き始めたのだ。俄かに勉強して、間もなく出家者のような心境に達し、ついに煩悩から脱したのか?と見えたところで結局は、むしろ仏教の用語や説を援用して煩悩を肯定してみせた。煩悩を否定する言葉で煩悩を肯定したところに三田村幸雄ならではの面白さがある。
他方、城東大学経営学部でブラック企業を研究しているブラック研究室のブラック講師、秋山杏子(黒木メイサ)は由緒ある寺院の一人娘であると判明した。新潟の長岡にあり、室町時代以来の歴史を誇り、当代が第三十七代。一昨年には開創六百年を迎えた由。そんな立派な寺院の娘が、経営学のような世俗そのものの探究を志してしまうというのは、奇妙なようでいて解るようでもある。
寺院の伝統をつなぐため、優秀な僧侶と結婚して婿養子に迎えることを母親の秋山彩子(戸田恵子)から命じられている秋山杏子は、東京で仕事を続けたくて、ゆえに見合いも結婚もしたくなくて、咄嗟に、今は三田村幸雄に夢中であるかのように偽装してみせた。三田村幸雄は秋山彩子の前で「坊主丸儲け」論を繰り広げるような恐ろしい俗物であり、秋山彩子にとっては断じて容認できない相手であるから、当然、三田村幸雄を婿養子に迎えることにはなり得ない。あらゆる結婚の話を拒絶するには上手い嘘であるのかもしれないが、反面、秋山杏子と三田村幸雄の普段の様子を見ていれば、必ずしも嘘とは見えない面もある。それに、秋山杏子の仕事への情熱を絶賛した三田村幸雄の言が、丸ごと嘘だったとも思えない。むしろ本気ではなかったろうか。
両名の関係の深化を見て心穏やかではないのが城東大学映画サークル「アルゴノーツ」の女優である岡島百合(門脇麦)。その様子を見た村松夏美(高月彩良)は「アルゴノーツ」の集会所で早速そのことを報告して、少し前に岡島百合に捨てられた副部長であり監督である前川健太(高田翔)を挑発したが、いつも陽気で能天気な部長の工藤亮介(永瀬匡)は部内に余計な波風を立てないように気を配った。しかるに結局、前川健太を最も挑発し、行動に駆り立てたのも工藤亮介だった。なかなか良い二人組であると見受ける。
学食で大盛の玉子入のカツカレーを食べようとしていた岡島百合に、前川健太はヤケ食いを止めるように語りかけ、自作の新作映画「走るゾンビ」のために現在の体型を維持して欲しいと告げた。主演女優には岡島百合しか考えられない…という前川健太の言は、恋の苦手な彼なりの精一杯の告白であるに相違ないが、岡島百合はヤケ食いならぬヤケ主演に走らせるつもりか?と応じて、前川健太を怒らせてしまった。去る前川健太を見送りながら「一応考えとく」とは呟いたが、無論その声は彼には聞こえなかったろう。
ともあれ、前川健太は今までも陰では岡島百合のために頑張ることもあったが(五月十三日放送の第六話)、自身が岡島百合を必要としていることを当人に直接に語りかけたのは多分これが初めてのことではないだろうか。今後の展開を見守ろう。