仮面ライダー鎧武第四十四話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第四十四話「二人の目指す未来は」。
これまでの四十三話を通して、生き残ってきた主な登場人物の間には大きく三つの集団が形成されてきたと見ることができる。集団を性格付けるのは、帰るべき家をめぐる態度の差であると云える。
一つ目の集団は、帰るべき家を守るため戦う人々。その筆頭はもちろん鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)だが、志を同じくする者として、凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)、城乃内秀保(松田凌)、そしてザック(松田岳)がいる。
二つ目の集団は、帰るべき家を営み、維持しながら、戦士たちの帰還を待ち続ける人々。ペコ(百瀬朔)とチャッキー(香音)の二人がそうだが、今や、新たに葛葉紘汰の姉の葛葉晶(泉里香)も加わった。心強い。反面、家を司ってきた高司舞(志田友美)は消えてしまった。
三つ目の集団は、家を捨て、家を破壊しようとする人々。真にそれを意図しているのは駆紋戒斗(小林豊)だけではあるが、覇者の妻でありたい湊耀子(佃井皆美)が期待感を抱いて寄り添っている。
三つ目の集団に近い者としては呉島光実(高杉真宙)もいたが、厳密には、彼は一方では己の帰るべき家であるはずの高司舞の家をどんどん破壊しておきながらも、同時に、己の帰るべき家として高司舞を欲してもいた。しかるに高司舞は大切な家を破壊しようとする彼を拒否し続けたばかりか、ついには人間を超えた存在と化して飛び去ってしまった。彼は遂に帰るべき家を失い、絶望して戦線を離脱した。
これら三つの集団は早くから形成されてきた。集団を形成する人々の性格はそれぞれが当初から具えていたと認められる。例えば、凰蓮・ピエール・アルフォンゾは一流のパティシエであり、大人気のケーキ店「シャルモン」の経営者でもあって、たとえ戦闘の途中であってもケーキを作るべき時刻が来れば、直ちに停戦を宣言して、走って店に帰るような人物だった。
興味深いのは、かつてダンス集団「バロン」で活動していた三人で、駆紋戒斗は「バロン」の創設者であり主宰であるにもかかわらず自ら「バロン」を脱退してしまったのに対し、「バロン」を守るために戦ったのはザックであり、「バロン」をダンス集団として維持したのはペコだった。三人の性格はもともと三者三様だった。だから今、三人がそれぞれ三つの集団に分かれているのは自然であると云える。さらに云えば、ダンス集団「鎧武」のラット(小澤廉)やリカ(美菜)を差し置いて「バロン」のペコが今や「鎧武」の家を営んでいるようにさえ見えるのも、彼がそのような役割を担うべき性格をもともと備えていたからこそのことであると分析できようか。
今朝の話では、このような三つの集団の差があらためて描かれていた。
家を出て行った駆紋戒斗を心配して、連れ戻すべく雨の中を走っていたペコとチャッキーは、負傷して倒れていた葛葉紘汰を発見した。致命傷を負った彼の身体を見てチャッキーは泣き出しそうになったが、ペコは叱咤激励して、二人で力を合わせて葛葉紘汰を家まで運んで帰った。ここにおいてペコとチャッキーは既に家庭を営んでいる夫妻のようでさえあった。同時に、葛葉紘汰には帰るべき家があるということをも表していた。
目を覚ます気配さえもなく眠り続けていた葛葉紘汰は、夢の中で金色の高司舞と会っていた。「黄金の果実」と融合して「始まりの女」と呼ばれる女神と化した高司舞の精神だった。「始まりの女」は、未来を選択する資格を持つ者が今や葛葉紘汰と駆紋戒斗の二人だけに絞られたこと、世界を守ってくれるはずであると信じることができるのは、今までも何時でも信じることのできた葛葉紘汰であること、しかるに駆紋戒斗は既に世界を破壊して未来を変更すべく動き出してしまったことを告げて消えた。そこで目を覚ました葛葉紘汰は、未だ身体の癒えない中、駆紋戒斗を止めるべく意を決した。帰るべき家を持つ彼は、家を守るため戦おうとしている。
他方、予想外の奇策によって自力でヘルヘイムの森と融合し、新たなオーバーロードと化した駆紋戒斗は、旧い世界を破壊し尽くして新しい世界の王になるべく動き始めた。湊耀子は王を作る女になるべく、どこまでも寄り添ってゆくつもりであることを誓った。両名を煽ったのはDJサガラ(山口智充)だった。高司舞の身体が黄金に輝いて消えた現象について、DJサガラは、高司舞が人間を超えた存在「始まりの女」になったこと、「始まりの女」こそは世界の覇者を決定し、「黄金の果実」「知恵の実」としての自身を与えて王にする役目を担っていることを説明したのだ。もともと高司舞に心惹かれ、半ば両想いでさえあった駆紋戒斗は、この瞬間、新しい世界の王になると同時に高司舞と結ばれることを目標に掲げた。高司舞への愛と、「黄金の果実」への欲望が一体化しているようだ。
ここにおいて呉島光実は違っていた。彼は高司舞その人を欲求していて、ゆえに、もはや人間の世界には存在しない「始まりの女」をどうしても欲求できなかったからだ。
それにしても、駆紋戒斗が「黄金の果実」とともに高司舞を欲求しているとすれば、駆紋戒斗に欲情している湊耀子は複雑な立場にあるのではないか。湊耀子が駆紋戒斗を助ければ助ける程に、駆紋戒斗は高司舞に近付いてゆくのだからだ。駆紋戒斗の腕の傷が急速に回復したのを見て湊耀子が驚嘆していた場面は、何となく淫らな気配に満ちてはいなかったかと思われるが、その場面において湊耀子が駆紋戒斗を見詰める目は輝いていたのに対し、駆紋戒斗が湊耀子を見詰める目が冷たかったのは、実に、三者間の複雑な関係を表してはいなかったろうか。
駆紋戒斗と湊耀子を煽ったDJサガラは、「始まりの女」を煽ることを通して葛葉紘汰をも煽ったと見ることができる。実際、夢の中で「始まりの女」から警告を受けた葛葉紘汰は、一刻も早く駆紋戒斗の暴走を止めなければならないと感じていた。そこへ凰蓮・ピエール・アルフォンゾと城乃内秀保が帰還してきて、駆紋戒斗が暴走し始めたこと、ザックが裏切ったことを告げたのだ。もはや猶予はないと葛葉紘汰は感じた。
これに先立って凰蓮・ピエール・アルフォンゾと城乃内秀保とザックの三人は、駆紋戒斗を家に連れて帰ろうと思って探していた。快晴の街の中で駆紋戒斗を見付けた瞬間の三人の嬉しそうな表情は印象深い。しかるに凰蓮・ピエール・アルフォンゾは元軍人として海外の幾つもの戦場で活動してきた豊富な経験から、瞬時に駆紋戒斗の異変に気付いた。ヘルヘイムの植物とインベスを自在に操る異形の者と化した駆紋戒斗を見て、ザックは悩んだ末に仲間を裏切って駆紋戒斗に従うことを表明し、攻撃を受けて変身能力を破壊された凰蓮・ピエール・アルフォンゾと城乃内秀保は退却するしかなかった。換言すれば、凰蓮・ピエール・アルフォンゾと城乃内秀保は、帰るべき家を持っていて、仲間を連れて帰ろうとしていたが、家を捨てた者から攻撃を受けたときには迷うことなく家まで逃げ帰ることができたということだ。
帰宅した凰蓮・ピエール・アルフォンゾと城乃内秀保から報告を受けたとき、ペコは信じ難い様子だった。駆紋戒斗に見捨てられ、ザックに裏切られたのだから無理もない。傷口こそ完全に癒えたとはいえ腹に受けた致命傷が治り切ったわけではない葛葉紘汰が意を決して立ち上がり、出陣しようとしたとき、皆が心配して止めようとした。凰蓮・ピエール・アルフォンゾは倒れそうになった葛葉紘汰の身体を抱き留めて外出を止めようとしたが、既に意を決した葛葉紘汰の眼を見て、行動を許した。ここでは軍人の勘よりも武士の情けが働いたのだろう。心配する葛葉晶は鎧武の母、凰蓮・ピエール・アルフォンゾは鎧武の父に見えた。
そして後半。
インベス軍団を結成して世界を攻略し始めた駆紋戒斗。嬉しそうな湊耀子。複雑な表情のザック。そこへ葛葉紘汰が重傷を顧みず駆け付けてきた。鎧武=葛葉紘汰とバロン=駆紋戒斗との間の長々しい戦闘が始まった。刀と刀で切り合う正々堂々の一騎打ちは、平安時代以来の由緒正しい戦い方であり(しかしグローバルスタンダードの観点からは嘲笑されるのか知らないが)、東映時代劇の最も能くするところでもあるだろう。苦闘の末に鎧武はバロンを圧倒したが、心配する葛葉紘汰やザックの見守る中、不死の身体を獲得している駆紋戒斗は間もなく立ち上がり、今度はオーバーロードと化して攻撃を再開。葛葉紘汰は極アームズで応戦した。戦闘力では葛葉紘汰がオーバーロード駆紋戒斗を上回っているように見えたが、如何せん葛葉紘汰は重傷の身であり、しかも駆紋戒斗を今なお仲間であると思っている。云わば二重の制限があって、葛葉紘汰は苦戦を強いられた。
そこへ割って入ったのがザックだった。駆紋戒斗のために「加勢する」と云って葛葉紘汰を盛んに殴ったが、密かに小声で「今は退け!」と助言し、勢いよく葛葉紘汰を殴り飛ばして、退却させた。退却しやすいように殴り飛ばしたのであると見てよい。
やはりザックは家を守るために戦っていたのだ。敢えて次週予告の映像のことに言及しておけば、阪東清治郎(弓削智久)経営のフルーツパフェの店「ドルーパーズ」のカウンター席で落ち込んで項垂れていたペコに、ザックは「戒斗は俺が止める」と云い聞かせていた(ように見えた)。家を捨てた駆紋戒斗と、家のために戦うザックと、家で待つペコの対比が、ここでも見事に描かれている。