仮面ライダー鎧武第四十六話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第四十六話「運命の勝者」。
先週の第四十五話の最後に、鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)とバロン=駆紋戒斗(小林豊)の最後の戦いが始まって、そして今週の第四十六話の冒頭に、それは終結した。極めて激しい戦闘だった。劇中ではそれがどれだけの時間を費やしたのかは明らかではないが、それを描くテレヴィドラマの上では数分間に過ぎなかった。意外だったのは、全体を通じて概ね駆紋戒斗が優勢だったことだろう。彼が強かったのはオーバーロードと化したからであるのか知らないが、オーバーロードと化したのは葛葉紘汰も同じではないか。どうしてあんなにも苦戦を強いられたのだろうか。ともあれ、苦戦を強いられたからこそ、葛葉紘汰の気魄の逆転には見応えがあった。気合で駆紋戒斗の武器を壊して、その破片で駆紋戒斗の身体を突き刺し、遂に倒した。
真の強さを求め続けてきた駆紋戒斗は、葛葉紘汰を何がここまで強くしたのかを問いかけた。「守りたいという祈り。見捨てないという誓い。それが俺の全てだ」と応えて泣いた葛葉紘汰に、駆紋戒斗は「なぜ泣く?」と問いかけ、「泣いて良いんだ。それが俺の弱さだとしても、拒まない。俺は泣きながら進む」と応えた葛葉紘汰に、「本当に、おまえは強い」と感嘆して絶命した。
全体として趣のあった今朝の話の中で一つだけ趣を欠いた箇所がここに来た。戦争の終結を見届けた「始まりの女」高司舞(志田友美)が勝者である葛葉紘汰に「黄金の果実」を授け、葛葉紘汰がそれを口にするや、葛葉紘汰は白い寸胴の鎧を着用して銀色のカツラを被ったかのような、奇妙な扮装に変貌したのだ。DJサガラ(山口智充)に云わせれば、これは「始まりの男」の誕生だったわけだが、明らかに金髪も銀髪も似合わない顔立ちの葛葉紘汰と高司舞にそのような格好をさせて二人並ばせた景色は、何とも場違いな印象を生んでいたのが正直なところ。そこだけは残念だったかもしれない。
とはいえ、ここにおいて葛葉紘汰が選択した道は、DJサガラの意表を突くものだった。
地球から遠く離れた宇宙空間の果ての、一欠片の生命もなく光もない闇の星へ、地球上を浸食しつつあるあらゆるヘルヘイムの植物とインベスを一つ残らず移動させて、そこへ葛葉紘汰と高司舞は旅立った。「これが俺たちの新しいステージだ」という言は、葛葉紘汰の最後の決断の表明に相応しい。
この決断は、一方においては駆紋戒斗の志を代行するものでもあり得る。なぜなら駆紋戒斗は、強者が弱者を虐げないような世界を創るために世界を白紙撤回しようとしていたが、誰も未だ知らない星に「新しいステージ」を求めるなら、わざわざ白紙撤回するまでもなくなるのだからだ。そしてそれは他方においては、地球上に今まで存在していた世界を、そのまま温存することでもある。駆紋戒斗の志を拒否し、あるいは乗り越えてゆく選択肢であると云ってもよい。
理想の世界を一から創り出してゆくために今までの旧世界を捨て、新世界へ移るという選択。これは実は裏面においては、世界の破壊者であり創造者でもあり得る「始まりの男」と「始まりの女」が、世界を破壊することも創造し直すことも拒絶したことによって、世界を追い出されたということでもある。DJサガラが両名のこの決断を、不可能に近い困難な目標の設定であると批判した所以は多分そこにある。新世界の創造者であるためには旧世界の破壊者であるべきであり、旧世界の破壊を拒否した新世界の創造者は、創造者であり得るにもかかわらず創造者にはなり得ていないのである以上、世界から拒否されざるを得ない…という理は、既に第四十話において明かされていた。葛葉紘汰は今、あらためて世界から拒否される道を選んだ。旧世界を守るため、旧世界から消える道を選んだのだ。
こうして守られた世界は、決して無事な世界ではなかった。既に殆ど破壊されてしまったからだ。
大企業ユグドラシルは市場から消え去り、あの巨大なユグドラシルタワーの解体工事も始まった。企業城下町から企業の城がなくなるわけだが、それでもなお、沢芽市という街を愛して、そこで生きてゆこうとする人々は多く、街は徐々に活気を取り戻しつつある。とはいえ、帰ってこない人々も多かった。
帰ってこない人々がどこか遠くで無事であれば問題ないが、中には、初瀬亮二(白又敦)のように、もはや帰ってくるはずもない人々も少なくないことだろう。葛葉紘汰と高司舞に連れられて遠い星へ旅立ったインベスの中に、行方不明者が混じっている可能性もあるが、戦闘で消去されたインベスの中に混じっていた恐れもある。
行方不明者を探し求める張り紙が無数に並んでいる壁面を見て、城乃内秀保(松田凌)が物思いに耽っていたのは、今まで散々「チャライ」言動を繰り広げていた彼の、内面の意外な深さを表していた。彼の思いを受け止めるのは無論、大人の凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)であるほかない。失われた生命を思いながら、二人は洋菓子店「シャルモン」を再開し、多くの人々に喜びを与えることのできる大繁盛の幸福を噛みしめてもいた。
敗戦後の空虚の中にも確かに復旧、復興は始まっていた。ユグドラシルタワーの解体工事はその象徴だが、それに比肩し得る変化は、かつてユグドラシルに踊らされて徒に無益な抗争ばかり繰り返していたビートライダーズが、今や自分たちで踊り始めているというところにある。ダンスの中心にいるのは、ペコ(百瀬朔)とチャッキー(香音)、ラット(小澤廉)、リカ(美菜)。もはや抗争はなく、皆で一緒に踊っている。そして彼等を楽しげに見守るのは、もちろん、ザック(松田岳)。本当は彼も一緒に踊りたいはずだが、あいにく、今は脚を怪我していて踊れないのだ。
そうした中で一人、まるで敗戦後の公職追放者であるかのように、身を潜めるようにして苦悩していたのは呉島光実(高杉真宙)だった。高司舞を失い、葛葉紘汰を失い、世界を破滅させようとした巨大な罪を背負ってしまい、生きる意味をも見失っていた。葛葉紘汰の志を継ぐザックは呉島光実を戦友と認め、ビートライダーズに戻したいと思っているが、呉島光実は、ビートライダーズに戻る資格が己にはないと感じていた。
不幸中の微かな幸いは、彼が自ら殺害してしまった実兄の呉島貴虎(久保田悠来)が、九死に一生を得ていたことだった。弟の攻撃を受けて海に沈んだ呉島貴虎は、暫く海上を漂流していたところを漁船に救助され、沢芽市内の病院に搬送されていたのだ。脳に大打撃を受けていて、身体こそ生きてはいても、なかなか目を覚ましてくれそうもなく、何を問いかけようとも応えてはくれないが、恐らく今の呉島光実にとっては兄の看病のため病院へ通うことが唯一の生き甲斐になっているのだろう。
救いの手を差し伸べたのは、またしても葛葉紘汰だった。「始まりの男」と化した彼は呉島貴虎の夢の中に現れて、一時は最高の友にさえもなろうとしていた呉島貴虎に、久し振りに語りかけた。苦闘の連続だった生涯から解放されるには永眠するのが近道であるとはいえ、呉島光実を助けてやれるのは呉島貴虎だけであり、今しばらくの間は、苦闘の人生を続けて、先ずは自ら「変身」し、弟をも「変身」させてやって欲しいと説得したのだ。弟への思いと、葛葉紘汰の説得に負けて、病室の呉島貴虎は目を覚ました。奇跡が起こった瞬間だった。このことが何を生じるのかは、次週の最終回を待たなければならない。