仮面ライダードライブ第五話

平成「仮面ライダー」第十六作「仮面ライダードライブ」。
第五話「鋼の強盗団はなにを狙うのか」。
世間を脅かす怪奇現象「どんより」を惹き起こす化け物たちを、退治してくれる「仮面ライダー」の存在は、徐々に街の噂になり始めていた。しかるに、警視庁特状課巡査の泊進ノ介(竹内涼真)こそがその仮面ライダードライブの正体であるという事実を知っているのは、現時点では、その開発者であり変身ベルトでもあるベルトさん(声:クリス・ペプラー)のほかは、泊進ノ介の同僚である詩島霧子(内田理央)だけ。
秘密裏に重大な行動を起こし続けるのは心身ともに容易ではない。泊進ノ介としては、特状課長の本願寺純(片岡鶴太郎)をはじめとする特状課の仲間たちや、特状課の必要性を認めて色々支援してくれている警視庁公安部警視の桐原英治(小林高鹿)には秘密を明かしても良いのではないか?とも思い始めていたが、ベルトさんはそれに全く同意しなかった。
なぜなら「本当に信頼できる人間は限られる」から。
このベルトさんの発言こそは、今回の物語を貫く主題に他ならない。(そして次週予告の中で本願寺純課長が言っていた「世の中、嫌な人間ばかりじゃないってことですよ」というのは、「信頼できる人間は限られる」ことの裏返しであると云える。)
実のところ、特状課の中にも裏切り者が一人出てきてしまったが、その裏切り者を生み出したのは、あたかも特状課の味方であるかのような顔をして近付いてきた公安部の桐原英治警視に他ならない。しかもこの人物は、街の噂になっている仮面ライダーの行動範囲が特状課の捜査の範囲に重なっていることに大いに着目している様子であり、彼が特状課に近付いて有益な情報を提供してくれているのは、どう考えても、仮面ライダーに関する情報を獲得するためであるのが明白だろう。信頼できない人物であると見える。
そして今回の事件、食品輸送車連続強盗事件こそは、「本当に信頼できる人間は限られる」ことの証明になろうとしている。
有力なロイミュードであるクラッシュ(安田大サーカス=HIRO)と、その子分であるロイミュード060(安田大サーカス=団長安田)と075(安田大サーカス=クロちゃん)は様々な食品会社の輸送車を次々襲っていたが、手当たり次第に襲撃しているかのように見えて実は、健康食品会社フォントワールを真の標的にしていた。見るからに不健康な太り方をしている彼等が健康食品を狙うとは意外だが、真の狙いは、同社の輸送車が密輸していた爆薬にこそあった。クラッシュは爆薬を摂取して自身の身体を強化していたのだ。
フォントワールの社長の倉持満(水野智則)も、輸送車の運転手の市川勇蔵(山本康平)も、泊進ノ介の眼には好ましい人物であるように見えていたが、少なくとも事実関係としては、爆薬を密輸するという悪事を働いていたことになる。従って、ロイミュードの襲撃からフォントワールの輸送車を守る行為は、「市民を守る」かのように見えて実は悪事に加担することでもあった。
このことが泊進ノ介を苦悩させ、再び無気力にしてしまった。
飽くことのない食欲にのみ突き動かされて次々食品輸送車を襲撃するクラッシュ一味の下品な行動は、ロイミュード指導層の死神チェイス上遠野太洸)を苛立たせ、多分それ以上にブレン(松島庄汰)を苛立たせていたようだが、クラッシュを懲らしめようとしたチェイスを止めたのはブレンだった。ブレンに止めさせたのは無論、首領のハート(蕨野友也)に他ならない。ハートは見抜いていたに相違ない。クラッシュの行動は、それ自体としては下品な強欲の発散でしかないとしても、結果を眺望するなら、善良そうに見える人間が進んで悪事に加担しているという真相を暴露することに繋がるだろうことを。
だが、そのことに何の意味があるのか。
多分、泊進ノ介=仮面ライダードライブを苦悩させ、失望させ、場合によっては改心させて、人間を見捨てさせることにさえ繋がるかもしれないことを期待しているのではないだろうか。なにしろ、クラッシュの悪事は人間の悪事を阻止することに繋がっていたわけで、換言するなら、クラッシュの悪事を阻止することは人間の悪事を見逃すことに繋がってしまうのだ。刑事であり「正義の味方」である泊進ノ介にとって、こんなにも苦しい矛盾があるだろうか。そして推測するに、実はチェイスこそはそうして人間を見捨てた人間だったのではないだろうか。