仮面ライダードライブ第十一話

平成「仮面ライダー」第十六作「仮面ライダードライブ」。
第十一話「暗黒の聖夜を防ぐのはだれか」。
仮面ライダードライブに変身する警視庁特状課巡査、泊進ノ介(竹内涼真)は、ロイミュードの首領、ハート(蕨野友也)との死闘の中で死を覚悟していた。たとえ己がいなくなろうとも、ベルトさん(声:クリス・ペプラー)が生き延びていれば誰か別の者が新たなドライブに変身してロイミュードとの戦いを継続し得ると考えたからだった。しかるにベルトさんは泊進ノ介のこの覚悟に大いに勇気付けられ、戦意を取り戻し得たと同時に、この覚悟それ自体を断固拒絶した。泊進ノ介は他に代わりのない唯一無二の存在者であるから。そもそもベルトさんがトライドロンを開発した理由は、ドライブの原型「プロトドライブ」とハートとの死闘の果てに、プロトドライブとその変身者を喪失したとき、大切な戦士を守るための己自身の戦力が必要であると痛感したことにあった。トライドロンはベルトさんの身体であり、戦士であるドライブの楯でもある。ベルトさんは泊進ノ介に対し、今後は決してあのような無謀な戦いを挑んではならないことを厳重に注意しつつ、もし泊進ノ介が「地獄」まで行くつもりであるなら、どこまでも同道するつもりであると宣告した。
この死闘が泊進ノ介にもハートにも深刻な傷を負わせながらも一応は無事に済んだのは、ドライブ陣営から見れば世界各地から続々戻ってきたシフトカー軍団が早くも戦場へ駆け付けて迅速に泊進ノ介を救助してくれたからだった。ベルトさんの察知するところ、世界中に散って活動していたロイミュードの幹部連は最近は次々に帰国してきている様子であり、それに伴って「どんより」現象も諸外国では減少しつつあると判断されることから、ベルトさんは、世界中に派遣して活動させていたシフトカー軍団を呼び戻し始めていた。こうして大集合したシフトカーズが、早くも快挙を見せたということだった。
だが、ロイミュード陣営から見れば、無謀な死闘を中断させたのは、ロイミュードの死神、チェイス上遠野太洸)の体当たりの攻撃だった。ハートは熱い心で戦うロイミュードであり、心が熱くなり過ぎたとき、もはや自分で自分を止めることもできないまま生と死の境域(「デッドゾーン」)にまで達してしまう恐れがあるので、そうなった場合にはロイミュードの処刑を任されている魔進チェイサー=チェイスに止めてもらうことを、チェイスとの間で予て約束していた。そして今回、チェイスはその約束を決死の覚悟で守ったのだ。チェイスはハートとの約束を大切に思っていることを体で証明し、ハートは心から感謝した。
両名の無謀な行動に苛立っているのはブレン(松島庄汰)。しかしハートの行動に苛立つのはハートを敬愛しているからこそであるのに対し、チェイスに苛立つのはチェイスに警戒しているからであるらしい。
チェイスは人間をなぜか攻撃できない。この意外な事実は第八話で明らかになった。チェイスが自覚したのもそのときだった。以降、そのことで悩んでいたが、今回に至っては、ボルトのロイミュードあご勇)の遺志によって着々と遂行されようとしていた大停電計画「暗黒の聖夜」が実行された暁には多くの死傷者が出るに相違ないことを泊進ノ介が切々と訴えたとき、チェイスは多くの人命が失われる事態を避けるため、泊進ノ介への攻撃の手を止め、事件の現場へ行かせてしまった。
これはロイミュード陣営の大切な計画、大切な儀式を邪魔する展開であり、怒るブレンはチェイスを懲らしめた。そのときだった。チェイスはその本当の姿を現した。彼はロイミュード000だった。しかもその姿に、ベルトさんは心当たりがあるようだった。やはりチェイスの正体、否、魔進チェイサーの正体はプロトドライブだろうか。そうであれば、彼は敵によって改造されて今に至っているのだろうか。
チェイスの本来の姿がプロトドライブであり、その目的が人間を守ることにあったのであるなら、現状がどうであれ、用心深いブレンが警戒するのも無理はない。チェイスロイミュードの暴走を止める処刑人であり、死神と呼ばれて恐れられているのも、そうした過去に因ると考えれば解り易い。
しかるにハートはチェイスを信頼していて、今回の顛末を全く気にもしていない。熱い心は温かい心の延長上にあるのだろう。考えてみれば、ロイミュードの開発者である蛮野博士はドライブの開発者であるベルトさん=クリム・スタインベルト博士の友であり、しかもロイミュードにもトライドロンにもシフトカーにも、ベルトさんが発明した動力源「コア・ドライビア」が共通して使用されている以上、実はロイミュードとドライブは不和の兄弟に他ならない。もともと反逆したのはロイミュード側であるから、もしチェイスがプロトドライブであるとするなら、チェイスには、反逆した側に留まり続けるのか、正気を取り戻して本来の居場所へ帰るのかの選択肢があるに過ぎない。ハートはそうしたことを広い心で展望しているのかもしれない。
ところで、ハートがボルトのロイミュードを「英雄」と呼んで尊重していたのには理由があった。ボルトは街中の電気を集めて大停電事件を引き起こそうとしていたが、同時に、そうして集めた膨大な電力を転送し転用して、一体のロイミュードを目覚めさせる計画にも協力してくれていたからだ。結局、ドライブ=泊進ノ介とベルトさん、世界中から大集合したシフトカーズ、警視庁特状課一同、今や特状課の一員のようになってしまっている警視庁捜査一課の警部補、追田現八郎(井俣太良)、さらには追田現八郎警部補の意を汲んで協力してくれた所轄警察署の大勢の刑事たちの大活躍によって「暗黒の聖夜」計画は辛うじて阻止されたが、もう一つの計画は静かに成功した。ハートを「ハート様」と呼んで慕う美女型ロイミュード幹部、メディック(馬場ふみか)が復活したのだ。
なお、今回の話では、特状課長の本願寺純(片岡鶴太郎)が意外な人脈と接待攻勢によってさり気なく権力を動かし、部下の活動を支援し得る実力派である側面を垣間見せた。劇中でも「得体の知れない人」と呼ばれていたが、実に、敵に回したくない人物であるに違いない。もう一つ面白かったのは、泊進ノ介が詩島霧子(内田理央)からの夜の誘いに興奮して有頂天になっていたこと。二人きりのクリスマスイヴと誕生会を楽しみにしていた彼の前に現れたのは特状課の一同で、忘年会をも兼ねていた。しかも一番盛り上がっていたのは特状課の一員でさえもないはずの追田現八郎だった。