仮面ライダードライブ第二十六話

平成仮面ライダー第十六作「仮面ライダードライブ」。
第二十六話「チェイサーはどこへ向かうのか」。
仮面ライダーチェイサー=チェイス上遠野太洸)が遂に誕生。その瞬間は、いかにもドラマティクで、なかなかロマンティクでもあった。半年前(否、もはや一年前にもなったのではないのか)の「グローバルフリーズ」の夜、雨中でロイミュードに襲われそうになっていた詩島霧子(内田理央)を、プロトドライブが救出し、抱きかかえていたあの情景が、今、同じように再現された。詩島霧子にとってはあのときから追い求め続けてきた最愛の「騎士」との再会であり、チェイスにとっては見失っていた記憶と使命の再生だった。
特状課巡査の泊進ノ介(竹内涼真)が負傷してドライブに変身できない中、マッハ=詩島剛(稲葉友)がロイミュード007に太刀打ちできないでいた中、しかもこの凶悪ロイミュードが最悪の(朝の番組には相応しくない)惨たらしさで詩島霧子を犠牲にしようとしていた中に、その待望の瞬間は到来したのだ。
もっとも、チェイスは直前まで悩んでいた。己は誰のために戦うべきであるのか?と。苦悩は長らく続いていたから、彼がロイミュード陣営からドライブ陣営に転身するのは時間の問題であろうとは多くの視聴者が長らく感じていたには違いないが、転身と誕生の直前まで悩んでいた事実は、彼の決意がどこまで盤石であるのかを疑わせかねない。だが、この点については今朝の話の前半に一つの明快な解答があった。
チェイスを悩ませていた問題は、ロイミュードか?人間か?という二者択一ではなかったのだ。チェイスが大切に思っていたのは、ロイミュード002、ハート(蕨野友也)だった。ハートか?人間か?の二者択一で悩んでいた。だから今朝の話の前半、チェイスをドライブ陣営に招き入れるべく声を掛けに来た詩島霧子と泊進ノ介の前にハートが現れ、ドライブとハートの一騎打ちになった場面では、チェイスはハートを守るためドライブを撃退し、泊進ノ介を負傷させた。
ところが、心で生きるハートはチェイスの心を解した。チェイスが今なお悩んでいるのを認めたハートは、チェイスを強引に連れ帰るのを諦め、チェイスが本気で最後の選択を決意するまで待つことにした。チェイスがどのような選択をしようとも受け入れる意を決したのだ。こうしてハートがチェイスを突き放した瞬間、チェイスの選択肢は一つに絞られたに等しい。そして今朝の話の後半、チェイスが詩島霧子を守るため仮面ライダーチェイサーに変身して戦ったのを最後まで黙って見届けたあと、ハートは大切な「友」の決断と決別を黙って受け容れた。「それがおまえの決断か。俺も受け容れよう。仮面ライダーチェイサーの存在を。さらばだ。友よ」と呟くハートの顔には寂しさが満ちていた。
こうして見ると、「仮面ライダードライブ」というのはドライブの物語である以上にチェイスの物語であり、同時に詩島霧子の物語、ハートの物語でさえあるのかもしれない。
ところで。今回の話は重要な真相を垣間見せた。
劇中の警視庁にはその上級官庁として(警察庁ではなく)国家防衛局があり、そこを支配する国務大臣は(国家公安委員会委員長ではなく)国家防衛局長官だが、現在、長官を務める参議院議員の真影壮一(堀内正美)が実はロイミュード001に他ならなかった。現場の刑事たちがどんなに「どんより」現象やロイミュードの危険性を認識して訴えようとも、「グローバルフリーズ」で世界が壊されかけようとも、刑事たちを支配する国務大臣ロイミュードそのものである限り、危機に真剣に対処する展開にはならない。それどころか、危機の存在を隠蔽する事態にしかならない。
そして昼行燈のように見えていた警視庁特状課長の本願寺純(片岡鶴太郎)は、国家防衛局長官の正体こそ現時点では知らないのかもしれないが、少なくとも、警察の上層部がロイミュード陣営に侵されているに違いないことを察知していた。警視庁捜査一課長に新たに起用された仁良光秀(飯田基祐)が特状課を潰そうとしてきたのも、その影響を物語っているというのが本願寺純の診断だろう。だからこそ、本願寺純は仮面ライダードライブの正体が泊進ノ介であること、その活動の拠点が特状課であることを敢えて公表したのだろう。云わば輿論を味方に付けたかったのではないだろうか。確かに、「どんより」現象から国民の安全を保障する味方として特状課の仮面ライダーの存在を明らかにしておけば、それを弾圧することは難しくなるように思われる。時宜を得た適切な判断であると納得できる。
ロイミュード001の活動の再開はロイミュード陣営にも影響を及ぼした模様。ロイミュード003=ブレン(松島庄汰)がロイミュード001に取り入ることで威勢を取り戻し、ロイミュード009=メディック(馬場ふみか)に対して漸く優位に立とうとしていた。とはいえ、ブレンがロイミュード001の威を借りてメディックに対抗しようとしているのは、何とかしてハートに気に入ってもらいたいから。
ブレンからもメディックからも、どのロイミュードからも、敵側のチェイスからも慕われるハートは、ロイミュード001が云ったように、なるほど「王の器」の持ち主であると云うしかない。ロイミュード001はハートの「王の器」を利用して陰で暗躍しようとしているらしい。ハートも、ロイミュード001が闇に隠れて暗躍する者であることを認識していた。ハートとロイミュード001が良好な関係を保つとは思えないが、ブレンはどのように立ち回ってゆくのだろうか。
そんな中で底抜けに間抜けであるのが警視庁捜査一課長の仁良光秀。彼は真影壮一に取り入って権力に与ろうとしている。気に入ってもらうために、特状課の泊進ノ介について監視を強化してゆくことを約束していた。どうやら彼には、かつて警視庁で知らない者はいない程の英雄だった泊英介(たれやなぎ)に嫉妬の私情があり、ゆえにその子である泊進ノ介に対しても憎しみがあるらしい。私情から泊進ノ介に敵対しているだけではなく私欲から真影壮一に取り入っているが、現実には、真影壮一の手先によって襲撃され、泊進ノ介によって救出されていた。敵と味方の区別も付かない奴には実に困る。