藤子・F・不二雄大全集の大長編ドラえもん第一巻&ドラえもん第一巻

夜、小学館藤子・F・不二雄大全集』の『大長編ドラえもん』第一巻を読み始めたところ一気に読んでしまい、続けて『ドラえもん』第一巻も一気に読んでしまった。
大全集『大長編ドラえもん』第一巻に収録されているのはもちろん「のび太の恐竜」、「のび太の宇宙開拓史」、「のび太の大魔境」の三傑作。巻末には、野比のび太の声優として親しまれている名優、小原乃梨子の談話「のび太くんは、私の人生の一部です。」も掲載されている。その中で「F先生が教えてくださったとおり、その後も毎年、のび太くんはスクリーンでかっこいい姿を見せます。拳銃の名手ぶりを披露する第2作、「のび太の宇宙開拓史」はその最たるもの。宇宙、西部劇、ヒーロー!といった、F先生の好きだったものを設定として取り入れ、私たちを楽しませてくれました」と述べられているように、実に、あの大長編の第二作には極上の英雄性が満ちている。荒野のガンマンと化した主人公のび太だけではない。のび太との友情を深めたコーヤコーヤ星のロップル少年の、不屈のフロンティア精神と郷土愛の情熱こそ、英雄の形容に相応しい。この漫画を読み、かの映画を観る全ての少年たちを激励し鼓舞し得る物語になっている。
大全集『ドラえもん』第一巻は、小学館の『小学四年生』、『小学三年生』、『小学二年生』に連載され始めた当初の作品を学年別に、掲載順に収録している。この編集方針が既に興味深い。
単純に発表年月日に関して整理するなら、昭和四十五年の一月から三月までの期間に関しては『小学四年生』『小学三年生』『小学二年生』に掲載された全作品、昭和四十五年四月から四十六年三月までの期間に関しては『小学四年生』『小学三年生』掲載の全作品、昭和四十六年四月から四十七年三月までの期間に関しては『小学四年生』掲載の全作品、そして昭和四十七年三月の最終回から昭和四十八年二月までの間の空白期間を経て、昭和四十八年三月に関しては『小学五年生』掲載の再開の予告、そして昭和四十八年四月から四十九年三月までの期間に関しては『小学六年生』掲載の全作品を収録している。
雑誌別に整理するなら、『小学二年生』に関しては昭和四十五年一月から三月までの全作品、『小学三年生』に関しては昭和四十五年一月から四十六年三月までの全作品、『小学四年生』に関しては昭和四十四年十二月の予告、四十五年一月から四十七年三月までの全作品、『小学五年生』に関しては昭和四十八年三月の再開予告のみ、『小学六年生』に関しては昭和四十八年四月から四十九年三月までの全作品を収録している。
このように整理してみると何とも中途半端であるかのように感じられてしまうが、それは錯覚に過ぎない。本全集における編集の肝は一学年の人々が読んだ話の流れを再現している点にある。『小学四年生』で連載が始まったのと同時に「ドラえもん」を読み始めた人々は、四年生から五年生への進級と同時に「ドラえもん」と別れなければならなかった。『小学三年生』で連載が始まったのと同時に「ドラえもん」を読み始めた人々も、五年生への進級と同時に「ドラえもん」と別れなければならなかった。これに対して、昭和三十六年に生まれて昭和四十三年度に小学校へ入学した人々は、昭和四十五年の『小学二年生』一月号で初めて、丁度そのとき連載の始まった「ドラえもん」を読み、昭和四十七年の『小学四年生』三月号で「ドラえもん」の最終回を迎え、昭和四十八年の『小学五年生』三月号で「ドラえもん」再開の予告に接して、『小学生六年生』四月号から再び「ドラえもん」を読み始め、小学校卒業と同時に「ドラえもん」と別れたということになる。以上、三学年の人々が読み得た「ドラえもん」全作品を収録したのが第一巻に他ならない。
彼等よりも下の学年の人々、昭和三十七年に生まれて昭和四十四年度に小学校へ入学した人々は、『小学一年生』から『小学六年生』まで切れ目なく「ドラえもん」を読み続けることのできた最初の学年であるということになる。面白いことに、第二巻にはその六年間の全作品を収録しているらしい。素晴らしい。
第一巻に収録された作品は傑作揃いだが、特に面白いのは「あやうし!ライオン仮面」(526-536頁)。笑いどころ満載であると同時に、いかにも藤子不二雄らしいSFになっている。
別の意味で興味深かったのは「のび太が強くなる」(88-103頁)。のび太の子孫セワシによる事件の解決が何だか説明不足なことになっている。のちの「ドラえもん」の完成度の高さに比較すると初期作品には何とも緩い味わいがあって、そこが素朴な魅力にもなっている。