仮面ライダードライブ第三十六話

平成仮面ライダー第十六作「仮面ライダードライブ」。
第三十六話「銃弾はどこに正義を導くのか」。
今回、ついにドライブ=泊進ノ介(竹内涼真)、チェイサー=チェイス上遠野太洸)、マッハ=詩島剛(稲葉友)が三人揃って変身した。待望の瞬間の到来だったと云われて然るべきだが、どういうわけか印象が薄れてしまったのは、一つには、それに先立って、先週の話で絶体絶命の危機に陥っていた警視庁特状課巡査としての泊進ノ介が余りにも見事な逆転劇をなし遂げて、強烈な印象を与え得たからだろうか。
だが、見事な逆転劇だった…と形容するには、当の逆転の経緯が謎に包まれ過ぎている。
謎について考えるため、三つの事実を確認しておくことから始めよう。
(事実1)
逆転劇を生じさせた第一の原因が、蛮野天十郎(声:森田成一)の頭脳を保全する蛮野パッドの、予想を上回る能力の高さにあるのは云うまでもない。
これをロイミュード003=ブレン(松島庄汰)から奪取していた詩島剛の前に、それを奪還すべくロイミュード002=ハート(蕨野友也)が現れたのは先週の話。今週の話では、力においてマッハを圧倒したハートがそれを軽々と奪還しようとしていたが、当の蛮野パッド自体が抵抗してハートを攻撃し、負傷させて気絶させた隙に、マッハを導いて一緒に逃亡したらしい。そしてその逃亡先にはチェイスが現れた。唐沢ゆかり(小泉ここ)を連れて。ブレンに毒を盛られて瀕死の状態のこの少女を救う方法を、蛮野パッドだけは知っているに相違ないと見込んだからだった。実際、見込んだ通りだった。しかも、蛮野パッドは、唐沢ゆかりが蘇生したことを伝える映像を、籠城事件の現場に閉じ込められていた泊進ノ介に送り届けてみせた。どうやら蛮野パッドは、放送電波やインターネット回線を自在に操ることができるらしい。蛮野ではなく万能であると云える。
(事実2)
唐沢ゆかりの無事を確認できたところから泊進ノ介の逆転が始まったわけだが、そのために彼は先ずは、仁良光秀(飯田基祐)&ブレンの罠に自ら掛かってみせた。敵側が望んだ通りの行動を取ってみせ、敵側の作戦を大成功させて、それで油断させたのだ。ここにおいて泊進ノ介は、味方が発してくれた微かな徴候を正確に読み解いて、背後で動いている真相の全体を正確に把握した上で、それを受けて己の採るべき選択肢を即座に見抜いて迅速に行動したに相違ない。彼自身の語に云う「脳細胞がトップギア」というのが驚くべき高水準の判断力と推理力の緻密な体系であることに、あらためて驚嘆するしかない。
(事実3)
対するに、ブレン&仁良光秀は信じ難い程に油断していたらしい。なにしろ、あんなにも手の込んだ罠を仕掛けて、泊進ノ介をあんなにも追い詰めることに成功していたにもかかわらず、泊進ノ介を「正当防衛」で射殺した(と思い込んだ)あと、その遺体を完全に放置してしまっていたのだ。あり得ない話だ。
以上。
ここまでは良いのだが、ここから先が問題だ。
(疑問1)
泊進ノ介の逆転勝利のためには、泊進ノ介が警視庁内で自由に動き回り得ることが第一の条件となる。仁良光秀を追い詰めるには、警視庁科学捜査研究所に弾丸の分析を依頼しなければならない。それで証拠を固めた上で、ブレン&仁良光秀の記者会見場に踏み込んでゆくのでなければならない。しかるに泊進ノ介は、警視庁捜査一課長である仁良光秀の陰謀によって、警察に追われる身となっていたのではなかったか。泊進ノ介が記者会見場に踏み込んだのは、ブレン&仁良光秀こそが真犯人であり、己が潔白であることを明らかにするためだった…と云えるが、そもそも彼が記者会見場に踏み込み得るためには、己が潔白であることを既に明らかにして、警察に追われない立場に戻っておく必要があったはずだ。ここには深刻な矛盾が生じてはいないか。
(疑問2)
泊進ノ介の逆転勝利を支援したのは、警視庁特状課の仲間たちであるに相違ない!と考えたいところではある。実際、記者会見場には特状課巡査の詩島霧子(内田理央)が直ぐに現れて、唐沢ゆかりが無事であることを実証してみせた。だが、先週の話において、詩島霧子を含めて特状課の全員が逮捕されて獄中にあったことを忘れてはならない。詩島霧子が泊進ノ介の逆転勝利を支援し得るためには、泊進ノ介の復権に先駆けて詩島霧子が釈放されて復権していなければならないはずだが、普通に考えて、詩島霧子の釈放のために奔走し得たのは泊進ノ介ではなかったろうか。ここにも矛盾が生じている。
以上。
斯かる難問を解決し得るのは大胆な推理のみだろう。
(仮説1)
全ては万能の蛮野パッドの業であると考えるほかない。なにしろ蛮野パッドは、放送電波やインターネット回線を自在に操ることができるらしいのだ。ゆえに、唐沢ゆかりがチェイスに保護され、介抱されて蘇生し、無事であることを伝える映像を、警視庁内のあらゆるテレヴィとパソコンの画面に上映し、次いで、籠城事件の現場内で仁良光秀が泊進ノ介に語った真相と、現場内で発生した発砲事件二件の一部始終を伝える映像をも、警視庁内のあらゆるテレヴィやパソコンの画面に上映しておくことは充分に可能だったろう。そうすれば、ブレン&仁良光秀の一味を除く警視庁内の全警察が事件の全貌を正確に把握し得たはずであるから、泊進ノ介は何の苦労もなく、あの見事な逆転劇に邁進することができたに相違ない。
(仮説2)
もっと大胆に考えるなら、そもそも警視庁内にはブレン&仁良光秀の言動に対する疑惑があったのではないか?という推理も不可能ではなかろう。実のところ、少し前まで警察組織を支配していた国家防衛局長官の真影壮一(堀内正美)こそはロイミュード001=フリーズだったのであり、その真影壮一の手足となって働いていたのがブレン&仁良光秀に他ならない。そのことを踏まえるなら、真影壮一の悪事を暴いた仮面ライダー&特状課を悪と決めつけ、ブレン&仁良光秀を善と認めるのはどう考えても無理がある。まともな頭脳の持ち主であれば、ブレン&仁良光秀をこそ疑うに違いない。予て特状課長の本願寺純(片岡鶴太郎)が警視庁内の各方面で信頼を得ていたことも、ここで効果を発揮したのかもしれない。
とはいえ仁良光秀は警視庁捜査一課長であるから、捜査員はその指示に従って、特状課を逮捕し、泊進ノ介を追わざるを得なかったわけだが、多分、本気ではなかったのだろう。実際、泊進ノ介は逃げ延びていたではないか。
そのように、警視庁内に薄々真実に気付いている人々が少なくなかった状況下、疑惑の仁良光秀によって射殺されたと思われていた泊進ノ介が、事件解明の鍵を握る重要な証拠を掴んで現れたのだ。泊進ノ介は必死に説得を試みるつもりだったかもしれないが、もとより警視庁内には彼よりもむしろ仁良光秀をこそ疑う空気があったのであるから、泊進ノ介の説得は何の苦もなく皆に受け容れられたろう。そして事件の真の解決へ向けて皆が一気に動いたということではなかったろうか。
(仮説3)
前述の「仮説2」の修正版として「仮説3」を提示し得るが、そのためには先述の「事実3」をやや修正する必要がある。ブレン&仁良光秀は実は油断していたわけではなかったのかもしれないと考えるのだ。彼等は泊進ノ介を「正当防衛」で射殺した(と思い込んだ)あと、その後始末を警視庁刑事部鑑識課等に委ねて現場を去ったに相違ないが、そこで泊進ノ介は鑑識課の人々に真相を明かしたことだろう。もちろん鑑識課を含めて警視庁内には予てブレン&仁良光秀に対する疑惑があったから、泊進ノ介による真相の開陳に信憑性を認め得たに相違ない。もともと泊進ノ介が優秀な刑事であり、警視庁内で一目置かれていたことも、ここで有利に働いたと想像される。彼の提示した証拠は直ちに科学捜査研究所で分析され、こうして確定した真相は速やかに警視庁内で共有され、あの記者会見場における見事な逆転劇に通じた。事態の変転に気付いていなかったのは、ブレン&仁良光秀の一味、総勢五名だけだったのだ。