妖怪ウォッチUプロトタイプ贈呈におけるマーク・シャッチーバーグの戦略

ニコニコ動画の「テレビ東京あにてれちゃんねる」(http://ch.nicovideo.jp/ch7)内の「妖怪ウォッチ」チャンネル(http://ch.nicovideo.jp/youkai-watch)で最新の第七十八話の配信あり。
今回は二本立。前半はケータ篇。後半はイナホ篇だが、ジバニャンがわずかに登場した。
新しいウォッチ「妖怪ウォッチU」の事件。
今まで妖怪ウォッチ妖怪ウォッチ零式を大量生産し販売してきたのは妖怪IT業界の最大手、ヨップル社で、代表取締役社長兼CEOはスティーブ・ジョーズだったが、驚くべき哉、天才と謳われてきた当のスティーブ・ジョーズが辞任に追い込まれた。理由は、妖怪ウォッチ零式の本当の発明者はケイゾウであるにもかかわらず、ケイゾウとは何の関係も接点もないと疑われるスティーブ・ジョーズがあたかも発明者、開発者であるかのように自称してきたことが社内で問題視されたこと。
想起するに、一年前にスティーブ・ジョーズが新作発表会を挙行した際、彼は初期の妖怪ウォッチが「ある男」によって創られた唯一の存在だったこと、それを最新の技術で大量生産したのが自身の成果であることを述べていた(第二十七話「新型ウォッチを手に入れろ」)。決して嘘を云ってはいなかった。問題になったのは、その「ある男」の権利を確認しないまま勝手に技術を盗んだ点だろうか。しかしケイゾウが妖怪ウォッチを発明したのは孫との約束のため、そして自身も妖怪と仲よくなるため、特に最高の友であるフユニャンのためであって、あくまでも唯一のものと考えていたに相違ないから、多分、妖怪ワールドにおける特許を取得しようともしなかったろう。もちろん人間界において特許を出願することを考えたはずはない。それにもかかわらず、ヨップル社の内部でケイゾウの権利を踏みにじったことが問題視されたとするなら、やはり妖怪ワールドにおいてケイゾウが偉人として敬われていたのか、それとも妖怪ワールドの企業人は人間界の企業人よりも良心に満ちているのか。もちろん社内の権力闘争でスティーブ・ジョーズが失脚しただけという面もあったろう。
新社長に就任したのはマーク・シャッチーバーグ。ニョロロン属。彼は独自に開発し直した新しい妖怪ウォッチ妖怪ウォッチU」のプロトタイプを披露したが、驚くべき哉、新作発表会であるのに、販売の予定がないことを告げた。一部の者で試用して、その結果を反映させて修正を施し、完成した暁に販売するらしい。
このことを知ったウィスパーは、このことの含意を瞬時に理解して大いに失望した。大富豪や著名人だけで独占し、ウィスパーのような「一般庶民妖怪」には手の届かない代物であることを恨み、格差社会の現実を皆に突き付けたヨップル社の姿勢を悲しんだのだ。ウィスパーの怨念はその身体を真黒に変えた。
事態を急変させたのはヒキコウモリ。彼は既に妖怪ウォッチUプロトタイプを入手していた。
マーク・シャッチーバーグは「世界の大富豪0.1パーセントに入る者同士」としてヒキコウモリとの親交を深め、「ヒッキー」の愛称で語りかけてくる程の仲であり、ケータのクローゼット内に構えられたヒキコウモリの邸宅を訪ねてきたこともあった。無論、ヒキコウモリの妖怪ウォッチUプロトタイプはマーク・シャッチーバーグからの贈り物だった。
ヒキコウモリはそれを惜しげもなくケータに贈呈したのだ。
ヒキコウモリの腕には大き過ぎる上に羽根にも当たるので身に着けることができないこと、クローゼットに住まわせてくれているケータへの感謝の念があることが贈呈の理由。
とはいえ、そもそもケータはケイゾウの孫。妖怪ウォッチの発明者であり、妖怪と人間との間に友情を樹立して妖怪ワールドと人間界をつないだ英雄であるケイゾウの孫に他ならない。しかも妖怪ワールドで(スティーブ・ジョーズに次いで)第二の大富豪であるヒキコウモリが当のケータの友であるばかりか同居人でもある。ヒキコウモリの友であるマーク・シャッチーバーグが、ヒキコウモリからそのことを知らされていないとも思えない。マーク・シャッチーバーグは事実上、ケータに贈呈したようなものではないのだろうか。