仮面ライダードライブ第四十二話

平成仮面ライダー第十六作「仮面ライダードライブ」。
第四十二話「女神の真実はどこにあるのか」。
物語の構図が見易くなった。ゆえに改めて整理しておくべし。
ドライブ=泊進ノ介(竹内涼真)は予て、チェイス上遠野太洸)に続いてロイミュード002=ハート(蕨野友也)にも解り合える面があるとは感じていたが、ついにはロイミュード009=メディック(馬場ふみか)にまでも理解できる面があると感じ取っていた。チェイスも、もはやロイミュード003=ブレン(松島庄汰)を仲間とは思っていないはずだが、ハートに対しては、今なお必ずしも敵視をしていない。泊進ノ介とチェイスロイミュード以上の敵と見ているのは蛮野天十郎森田成一)であり、蛮野の実の子であるマッハ=詩島剛(稲葉友)も、今までは実の父が生み出したロイミュードをこそ敵と見て憎んでいたが、今やロイミュードよりも実の父こそが最も醜い敵であると知るに至った。
対するに、ハートこそは最も蛮野天十郎の危険性を認識し、敵意を抱いてきたのであり、人間全般に対する彼の敵意の根源も、実は蛮野への敵意に他ならない。蛮野への憎しみから、蛮野の協力者だった「ベルトさん」=クリム・スタインベルト(声:クリス・ペプラー)を憎み、クリムの発明である仮面ライダーを憎んできたというのが真相だった。
そして今、これまでは小さなコンピュータの中に宿ってインターネットの中を自在に動き回るだけだった蛮野天十郎が、先ずは悪のベルトとして復活し、次いでロイミュード006(松浦新)が超進化を果たした瞬間にその精神を破壊して消去して身体だけを乗っ取って寄生したのみか、新たな悪の仮面ライダードライブ「ゴルドドライブ」に変貌させた。凶悪な敵が誕生したのだ。
ゆえに、ゴルドドライブ=蛮野天十郎に対して、ドライブ、チェイス、マッハの仮面ライダー陣営と、ロイミュード陣営内のハートが共闘せざるを得ない構図になった。チェイスからの共闘の申出をハートは拒絶したが、意志においては今なお敵であろうとも、構造においては共闘するしかなくなったと云える。
超進化を果たしたのと同時に蛮野の制御下に置かれるに至ったロイミュード009=メディック(馬場ふみか)によって凄まじい攻撃を受けようとしていたドライブ、チェイス、マッハを、身を挺して守ったのはハートだった。
ハートの戦略が優れていたのは、絶体絶命の危機を予め察知して、それを阻止するため、あるいは少なくとも遅らせるために、選りにも選ってブレンの忠誠心に訴えたところだろう。頭脳派(「ブレイン」)を気取りながらもどうにも頼りないブレンが今回もまた長い物に巻かれて蛮野に利用され、ハートを裏切る格好になってしまったことを謝罪したとき、ハートは敢えてブレンを信頼し、ブレンに最大の作戦を命じた。身をやつして逃亡し、皆の前から「消える」という作戦を。蛮野がメディックを超進化させる可能性が濃厚になった段階で、ロイミュード006の身体を得た蛮野をも含めて超進化体ロイミュードが「約束の数」である四体に達する可能性も濃厚になった。そうなれば「約束の数」による力を蛮野に利用されることは確実であり、ハートにとっては最も望ましくない事態が生じる。そのような事態を避けるには、「約束の数」を揃わせないに限る。だからハートは、ブレンに逃亡を命じた。
この話で面白かった点の一つはブレンが憐れみの感情を持つに至ったところだろう。ブレンはメディックを憐れみ、落涙した。原因は、ハートの慈悲を受け止めたのと同時に、メディックの真相を知ったことにある。
(1)メディックは他のロイミュードの身体を癒し得るが、引き換えに当のロイミュードの感情をも吸収する。吸収してその感情を自身のものにしてしまう。ブレンの傷を癒せば、ブレンの嫉妬心を得てしまう。ハートやチェイスの傷を癒すことはメディックの喜びだったに相違ないが、ブレンをはじめ、醜い感情を宿したロイミュードたちの傷を癒すことは苦痛だったろう。その点では、メディックがブレンを蔑んだのも当然だったのかもしれない。ブレンの精神を蔑んでしまうのは、ブレンの精神がそれを蔑んでしまうからでもあったろう。
(2)メディックの人間体は、交通事故に見せかけた殺害行為によって路上に倒れていたバレリーナの羽鳥美鈴(馬場ふみか)の身体を癒しながら複写したものだったが、その心は、羽鳥美鈴が己の生命よりも大切に思っていた愛犬、ショウの身体を癒しながら吸収したものだった。羽鳥美鈴に愛されていたショウは、同じように羽鳥美鈴を愛していた。メディックの求める「真実の愛」とは、忠犬の忠誠心だった。だからメディックは愛犬ショウを大切にしていた。メディックから犬の世話を命じられたこともあるブレンは、犬に対するメディックの愛を目撃してはいたが、その奥にこのような真相があったことまでは今回まで知らなかった。
(3)愛犬ショウに対するメディックの愛は、愛犬ショウに対する羽鳥美鈴の愛であり、ハートに対するメディックの愛は、羽鳥美鈴に対するショウの愛だった。それは純粋な愛であり、忠誠心であり、無償の奉仕に生きる真直ぐな心だった。しかるに、そのような清く明らかな心も、他の醜いロイミュードの傷を癒す度に汚された。ブレンの傷を癒せば、ブレンの心によって汚された。無償の奉仕には、余りにも酷い代償があった。
(4)そして今、ブレンの口車に乗せられたメディックは、蛮野天十郎に騙されて、超進化を果たしたのと同時に心を失い、蛮野の制御下に置かれ、単なる操り人形と化した。ハートに対する純粋な忠誠心を自覚したことで超進化を果たし得た瞬間、その忠誠心を含めた心そのものを失った。蛮野の指示一つでハートをも攻撃できるようになった。ハートへの愛のゆえに得た力でハートを容赦なく攻撃できるのだ。一体、こんなにも酷い矛盾があろうか。ブレンが落涙するのも当然だろう。