第十一巻から第十六巻まで

てんとう虫コロコロコミックス「怪盗ジョーカー」第十一巻から第十六巻まで。
アニメ版「怪盗ジョーカー」の第二期の最後を飾った第二十六話「長き夜の終わり」は、第二十四話「パンドラの鍵と滅びの王国」、第二十五話「光と影のジョーカー」と合わせて一つの大きな物語終結を描いた。ジョーカー、スペード、クイーンそれぞれの過去に不幸を生んだ宿敵、プロフェッサー・クローバーの最期を描くと同時に、ジョーカーの最大のライヴァルと見えていたシャドウ・ジョーカーとジョーカーとの因縁を明らかにして、両者の和解まで描いた重要な話だった。原作ではそれは第十二巻の冒頭に掲載されている。大長編「長き夜の終わり」は三章から成り、第一章が「光と影のジョーカー」、第二章が「シアンとローズ」、最終章が「大いなる女神の下で」と題される。三章から成るこの大長編を、アニメ版では第二十五話と第二十六話の二話に分けて一応の一話完結の形にした上で、原作の第十五巻の冒頭に掲載されている第二の大長編「パンドラのカギと滅びの王国」をも、同じ物語の一部として読み換えて組み込んで、一時間半もの映画版かと見紛う大長編アニメに仕上げている。アニメ版「怪盗ジョーカー」を制作したシンエイ動画は、これで最後になるかもしれないと覚悟を決めて渾身の大作を作ったに相違ない。その驚嘆に値する完成度の高さが、第三期の制作に繋がったのは実に幸い。
さらに幸いなことに、原作でも、プロフェッサー・クローバーが倒され、シャドウ・ジョーカーとジョーカーが共闘の末に和解したあとにも物語は続いてゆく。プロフェッサー・クローバーとの死闘の果てに無事救出された魔法少女ローズは、兄シアン=シャドウと一緒に怪盗として活動を始め、ジョーカーとの間に楽しいライヴァル関係を築いてゆく。最初に第十四巻の「超速!!ファイヤーボール・グランプリ」で再登場し、特別篇「闇をかける兄妹」では妹ローズが兄シャドウについて世間に「最近カゲがうすいニセジョーカー」と馬鹿にする声があることを大いに危惧している。第十六話の特別篇「集合!怪盗サバイバル!!」では、シャドウがスペードと一緒に登場してジョーカー、ハチ、クイーンに合流し、完全に仲間の一人にもなっている。原作と同じくアニメ版も、どこまでも終わりなく長期化できることだろう。
驚かされたことの一つとして、ロコが原作では第十六巻の「真夏に吠える獣」まで登場しないという事実がある。アニメ版ではクイーンと行動を共にして一緒に生活してもいるが、原作では単独で行動している。原作のロコは幼時のジョーカー、スペード、クイーンと出会って早々にジョーカーと喧嘩しながらも、ジョーカーから「ロコ」という名を与えられ、共闘する中でジョーカーの情熱と知略に接したことで、ジョーカーに対して特別な思いを抱いている様子だが、アニメ版の第十一話「満月に吠える獣」では、出会って早々にジョーカーと喧嘩する中でクイーンの優しさと美しさに接して惚れ込み、ゆえにジョーカーとクイーンの両名に対して特別な思いを抱いている。結果、スペードに対しては今一つ思い入れがないようで、そこがアニメ版における笑いどころの一つにもなっている。
アニメ版と比較しながら原作を読んでゆくと、原作が湛える豊富な面白さをアニメ版が上手い具合に編み直していると判る。てんとう虫コロコロコミックスの帯に「クオリティ絶対保証!!面白さお宝級!!待望のアニメ放送スタート!子どもだけでなく大人も夢中になれる奇跡のアニメ!」と書かれているが、これは確かに事実であるし、原作者も満足しているのだろうと窺わせる。