Free!とFree!ESとの間の矛盾を露呈させる鴫野貴澄の登場

ニコニコ動画には「Free!」と「Free!ES」の公式チャンネルがあることに気付いた。
前者についてはDVDを借用して全話を一気に視聴し終えていた上に、その直後にはブルーレイディスク全巻を安く購入しておいたが、後者についてはブルーレイディスクもDVDも購入するつもりがない。とはいえ実態を知らないまま嫌悪感だけを抱くのも公平ではないかもしれないとも思い直し、ニコニコ動画の視聴であれば安価で済ませることができるので、今宵、一ヶ月間の全話一括視聴権を購入し、早速、第八話まで八話を一気に視聴してみた。
第八話には鴫野貴澄と弟の鴫野颯斗が登場し、橘真琴、七瀬遙の過去も少しだけ描かれる。岩鳶中学校における七瀬遙と橘真琴と鴫野貴澄との関係は概ね、原案小説『ハイ☆スピード!2』に基づいている(ゆえに映画「ハイ☆スピード!」からも遠くはない)と云える。
それだからこそ、この鴫野貴澄の登場は、「Free!」連作と小説二作との間の齟齬(そして「Free!」連作と映画との間の齟齬)どころか「Free!」と「Free!ES」の連作内にさえ矛盾があることをも露呈している。鴫野貴澄は橘真琴と七瀬遙に「もちろん水泳、続けているんだろ?」と語りかけたが、もし七瀬遙が中学一年の冬に岩鳶中学校水泳部を退いて水泳から離れたのであるなら、鴫野貴澄がそのことを知らなかったはずはない。ゆえに一転して現在も「水泳、続けている」ことをむしろ意外な事実として受け止め、少なからず驚いていて然るべきだったろう。それとも、鴫野貴澄は中学一年の秋にはどこかへ転校し、冬の異変を知ることがなかったとでも云うのだろうか。急な転校の理由は何だろうか。親の仕事の都合か何かで、家族で急にどこかへ移転したのか。だが、そうなると弟の鴫野颯斗をわざわざ岩鳶スイミングクラブへ通わせているのはどのような事情によるのか。あまりにも無茶な話だ。
思うに、仮に映画「ハイ☆スピード!」を観ていなかったなら、仮に小説「ハイ☆スピード!」と「ハイ☆スピード!2」を読んでいなかったなら、仮に映画とその原作小説における七瀬遙と橘真琴に愛着を抱くことがなかったなら、そして仮に「Free!」第一期における七瀬遙と橘真琴と葉月渚と竜ヶ崎怜に愛着を抱くことがなかったなら、「Free!ES」(「Free! -Eternal Summer-」)をもっと楽しめていたのかもしれない。しかし、それは岩鳶高等学校の七瀬遙と橘真琴の物語ではなく、鮫柄学園高等学校の松岡凛と山崎宗介の物語であると受け止められるほかなかったろう。それ程にも、主人公が脇役に転落してしまっている。