マギ第十七巻から第二十巻まで

大高忍『マギ』第十七巻から第二十巻まで四冊を一気に読んだ。
第二十巻は「マグノシュタット」編の完結編。その始まりがどこであるのか判らないが、アラジンがアリババとモルジアナと別れて一人でマグノシュタットへ向かったのは第百三十五夜で、第十四巻。なかなか長い話だったと云える。
親しい人々と別れて始まった話は、親しい人々と合流して結ばれた。ここが実に熱い。
アラジンとアリババ、モルジアナの再会を、読者は早くに予感できる。なぜなら第十七巻において、レーム帝国とマグノシュタットの戦争が始まったとき、マグノシュタットへ進軍するレーム帝国の戦艦には、強くなったアリババが乗っていたから。「大事な友人」との再会を望んで、マグノシュタットへ行くべく帝国軍への参加を志願していた。外国人の剣闘士でしかないアリババが帝国軍に参加できたのは、シェヘラザードの信任厚い剣闘士ムー・アレキウスに嘆願し、聞き入れられたから。しかも、このムー・アレキウスはファナリス兵団の団長であり、ゆえにファナリスの正統であるモルジアナとの出会いを予感させる。アリババがファナリス兵団の人々にモルジアナの武勇伝を語って聞かせたろうことも、容易に想像できる(実際、その通りだった)。
そして再会。それは第十八巻の出来事。先ずは第百七十五夜、レーム帝国とマグノシュタットの激戦の只中、凄まじい魔力の発生に、アリババはアラジンの気配を感じた。次いで第百七十六夜、魔装化したムー・アレキウスが街を切り裂こうとしたとき、体を張ってそれを止めようとしたアラジンの前に現れてムー・アレキウスの攻撃を阻止したのがアリババだった。そこに合流したシェヘラザードは、アラジンがユナンと「同じ景色を、見据えているかもしれない」ことを察知した。
再会の範囲が大いに拡大するかもしれないことを予感させたのは第十八巻の最後。この戦争に煌帝国が参戦したとの報があったから。続く第十九巻の冒頭、マグノシュタットへ進軍する煌帝国の先鋒をつとめるのは練紅覇。アラジンの友であり、マグノシュタットの黒いジンが煌帝国軍の制圧に向かったことを知ったアラジンが真先に心配したのは練紅覇のことだった。そこでアラジンの思いを察したアリババが魔装化して戦場に飛び、練紅覇を助けようとしたが、そこへ駆け付けたのが練紅炎。
第十九巻の後半では、遂に黒い太陽が出現。これが世界の破滅に繋がることを知るアラジンは、皆の力を結集させるため、アリババと練紅炎をはじめ「金属器使い」全員の眼前、マギの力を発動。「ソロモンの移し身」の力によって一同のジンたちを実体化させ、ジンたちの言葉を通じて、「暗黒点」を防ぐためには皆の力が必要であることを説いた。これを受けて練紅炎は練紅明、練白瑛、練紅玉を招集した。練白瑛は「命の恩人」であるアラジンとの再会を喜び、練紅玉は「仲良しなお友達同士」のアリババとの再会を喜んだ。
今までの波乱に富んだ長い物語の中の、様々な局面を彩った数々の出会いがこうして一つの局面に合流し、融合してゆくのは実に熱い展開であると云うしかない。
しかし第二十巻、アラジンの見守る中、練紅炎の率いる「金属器使い」の戦士たちがどんなに強力な攻撃を繰り返そうとも、暗黒の太陽の力は尽きることを知らず、遂にアラジンもアリババも練紅炎の兄弟姉妹も力尽きるかと思われた。
その瞬間、暗黒の組織を従える練紅艶が最も恐れる存在、「第一級特異点」シンドバッドが登場。しかも「七海連合」のエリオハプト王アールマカン・アメン・ラー、アルテミュラ女王ミラ・ディアノス・アルテミーナ、ササン騎士王ダリオス・レオクセス、イムチャック族首長ラメトト、さらにはドラコーンとヤムライハも従えてきた。
シンドバッドに援軍を頼んだのは謎のマギ、ユナン。そしてユナンの下で修業していたモルジアナだった。モルジアナは、力尽きて空から墜落しようとしたアリババを抱き留めて救出する形で再登場。
アールマカン・アメン・ラーの弟シャルルカンや、ミラ・ディアノス・アルテミーナの娘ピスティが登場しなかったのはシンドバッドの意向によるらしい。留守番を仰せ付けられたろうか。ジャーファルやマスルールが登場しなかったのも同じ理由によるのだろう。しかし彼等を除けば物語の主要な登場人物の大半が勢揃い。この上なく熱い展開。
暗黒のルフの「依り代」の動きは鈍くなった。その核をなすモガメットに迷いが生じたから。迷いを生じさせていたのは、亡くなったティトスのルフだった。「ソロモンの知恵」によってモガメットに語りかけたアラジンとヤムライハは、モガメットから黒いルフを白いルフへ戻す方法を見付け出して欲しいと告げられ、さらには「優れた者など、どこにも存在しない」ことをマグノシュタットの皆に伝えて欲しいとも告げられた。「優れた者」の徴が「眩しい誰か」であることにあるなら、それはシンドバッドを指しているのだろうか。
レーム帝国のマギであるシェヘラザードと分身のティトスは亡くなったが、聖宮においてウーゴに歓迎され、シェヘラザードの推挙によってティトスが後継者に選定され、レーム帝国の新しいマギとして蘇ったティトスは、少女マルガ、アラジン、スフィントスとの再会を果たした。
この間、ジュダルと練白龍も実は上空から戦闘の一部始終を目撃していた。ジュダルは黒いルフを回収し、練白龍は敬愛するアラジン、アリババ、モルジアナを裏切る道を選んだことを心の中で謝罪しながら、再会しないまま決別を決意した。
なかなか激しく、熱く、大きく、しかも寂しげな余韻にも満ちた展開と結末だった。今後の新展開も実に楽しみ。