マギ第二十八巻から第二十九巻まで

大高忍『マギ』第二十八巻から第二十九巻まで。
第二十五巻から始まった「煌帝国」編は第二十九巻の前半で完結。その終盤にあたる第二十八巻では、練白龍と練紅炎がそれぞれ皇帝を名乗り、東西に分裂した煌帝国の内乱が物語られた。
東軍の練白龍が不利な条件下にあることは明らかだったが、それでもなお敢えて内乱を惹き起こしたことの真の狙いは、同盟軍の介入を招くことにあった。
同盟軍の盟主はシンドリアの国王シンドバッドであり、同盟軍とは七海連合に他ならなかった。七海連合には今や極東の島国にある鬼倭王国までも加わり、勢力はさらに拡大していた。しかも今回の戦闘には八人将の内、ジャーファル、ヒナホホ、ドラコーン、マスルール、スパルトス、ピスティ、シャルルカンの七将ばかりか、アルテミュラ女王ミラ・ディアノス・アルテミーナとエリオハプト王アールマカン・アメン・ラーまでも直々に参戦していた。
この時点で完全に形勢逆転であり、英知の人である練紅炎は直ちに降伏。徒な戦闘によって多くの兵を犠牲にしたことを謝罪し、己の生命と引き換えに、民と国家の保全、弟と妹の助命を嘆願した。しかし同時に、練紅炎は練白龍に対し、練白龍の宿敵だった練玉艶は練紅炎にとっても宿敵だったこと、練玉艶の正体がアラジンの話に出てきたアルバであるなら、その実体は実は今でも生きているのではないのかと思われること、そしてアルバを本当に倒したければ、もっと多くの知識と力が必要ではないかと考えていたことを明かした。
練紅炎の器の大きさが予想以上だったことを思い知って練白龍は打ちのめされ、その密かな助命のため、練紅炎の助命嘆願に駆け付けたアラジンに、魔法で一芝居を打ってもらった。表向きには公開の場で処刑された練紅炎は、実際には流刑地の練紅明、練紅覇と一緒に生きることを許された。
こうして煌帝国の内乱は収まったが、煌帝国の苦悩はむしろそこから始まった。シンドバッドは七海連合に加わった諸国に対して共通の法を押し付けた。統一された法の下の、自由と平等。それはもともと異なった条件下に成立してきた諸国の治安や発展に関しては不自由と不平等を発生させる原因にしかならず、最も打撃を受けたのは煌帝国だった。統治に失敗した練白龍は退位せざるを得なくなり、帝位を継いだのは練紅玉だった。かつてシンドバッドに恋を抱いてシンドリアにまで滞在したこともあり、無自覚のままシンドバッドに利用されたこともあった練紅玉は、今やシンドバッドへの復讐心を胸中に秘めるに至っていた。
同じ頃、暗黒大陸をさまよっていたアリババの霊魂とジュダルは、アリババの導きによって原始竜に会った。アリババの話を聴いた原始竜は、アリババとジュダルを背に乗せて大峡谷の番人であるユナンの許へ運んだ。ユナンはアラジンとモルジアナからアリババの身体を託されていた。原始竜が運んできたアリババの心をその身体と一体化させ、時間をかけて復活させた。その間にジュダルは旅立った。復活する前のアリババからジュダルや原始竜が聴いた話や、生き返ったアリババからユナンが聴いた話から想像するに、どうやらアリババは「聖宮」に招かれてウーゴから多くの知識を授けられたらしい。さらには新たな力までも授けられたらしい。
アリババはどうやらウーゴから、シンドバッドがダビデに心身を乗っ取られていると聴かされたようだが、同時に彼はどうしても信じ切れず、シンドバッドを疑い切れず、真相を確かめるためシンドリアに赴いた。ジャーファルの特別な計らいによってシンドバッドへの謁見を許され、直接に話を聴くことができた。驚くべきことに、シンドバッドは心身をダビデに乗っ取られたのではなく、むしろダビデを利用しているのであると答えた。そしてダビデと通じていることについては、ジャーファルのような側近にさえも知らせてはいないこと、その上でアリババとは手を組みたいと思うことを告げた。
しかし無論これには裏の意味があるのだろう。シンドバッドは「聖宮」に強い関心を抱いていて、ゆえにアリババが「聖宮」に招かれたと思しいことに強い関心を抱いたというのが真相であるに相違ない。しかもシンドバッドは今や八人将にさえも昔のようには接していない。現在の一番の側近は、練白龍の姉である練白瑛。その正体は、練白瑛の身体を乗っ取った練玉艶ことアルバに他ならない。