大河ドラマ風林火山第十話

NHK大河ドラマ風林火山」。原作:井上靖。脚本:大森寿美男。音楽:千住明。主演:内野聖陽。演出:清水一彦。第十回「晴信謀反」。
武田信虎仲代達矢)と武田晴信市川亀治郎)それぞれから今川家に届けられた書状をめぐって論議をしていた寿桂尼藤村志保)と今川義元谷原章介)、そして太原雪斎伊武雅刀)。知力と胆力に秀でた三貴人があれこれ意見を交わして計略をめぐらしてゆく様が絶妙に面白かった。
だが、もっと面白かったのは、真田幸隆佐々木蔵之介)等に対する戦勝を祝う武田家の会議の席において瞬時に繰り広げられた心理戦だ。晴信の陰謀に乗ることを選択した今川義元から晴信へ与えられた信虎宛書状を、板垣信方千葉真一)と結託した飯富虎昌(金田明夫)が「大殿」信虎へ提出した際、武田家中の武将たちの表情はどうだったか。首謀者とも云える板垣と飯富と甘利虎泰竜雷太)の三人はもちろん既に覚悟を決めてはいても、内心では少々冷や冷やしていたようでもあった。当然だ。これは生死を賭けた謀反なのだ。教来石景政(高橋和也)をはじめとする多くの家臣たちも彼等三人に従っていた中、陰謀の存在を知らされてもいなかった諸角虎定(加藤武)は、何も知らないで暢気な、穏やかな表情だった。他方、同じ立場にありながらも対照的だったのは小山田信有(田辺誠一)。あたかも最初から陰謀に加担していたかのような言動。事態を正確に見抜いていたと思しい。把握したのは会議でのことか、それ以前のことか。こうした中で最も印象深かったのは晴信の弟、武田信繁嘉島典俊)。あの平穏で和やかな会議の席上、彼は異様な気配を瞬時に察知し、飯富に二つ質問を発して異変の発生を理解したらしく、何事も感じなかったかのように皆に和したのだ。
山本勘助内野聖陽)の草庵を訪ねた庵原之政(瀬川亮)。周囲で何が起こりつつあるのかを全く理解できていない点は相変わらずだが、陽気で勇ましくて器が大きいのは魅力的だ。庵原忠胤(石橋蓮司)も基本的には似たところがあるように見受ける。よい親子なのだ。