仮面ライダーW(ダブル)第三十二話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第三十二話「風が呼ぶB/今、輝きの中で」。
脚本:三条陸。監督:諸田敏。
ハードボイルドを気取ってはいるものの、ハードボイルドであるには余りにも心優しくて、つい、犯人に甘い態度を取ってしまう左翔太郎(桐山漣)。そうして何時も危険な目に遭ってしまう「ハーフボイルド」の彼に対するフィリップ(菅田将暉)の厳しい説教は、事実上、愛の告白に他ならなかった。愛の説教ではなく、告白だった。フィリップは、たとえ己の相棒にするには翔太郎が弱過ぎるとしても、それでもなお、己の相棒は翔太郎であって欲しいこと、否、それ以上に、翔太郎でなければならないことを、翔太郎に告げたからだ。この冷静でありながら熱烈でもあったフィリップの告白への翔太郎の返礼は、たとえ己の身を犠牲にすることになろうとも、どこまでもフィリップに付いてゆくことの表明にあった。「おまえが相棒だと思ってくれてる内は俺は二度と降りねえぞ」。
翔太郎のこの献身が強烈な情熱に裏付けられていることは、その直前に一度、彼がフィリップから捨てられかけて、そのゆえに希望も気力も失っていたこととの対比によって了解できる。フィリップから「もう、君には無理だ」と宣告されたときの翔太郎の絶望の表情は、余りにも忘れ難い。常に前向きであろうとする彼は「Wが務まらねえ俺には、探偵しかねえ」と云って、仮面ライダーになることを断念してもなお街を守るために戦い続けようとしたが、絶望の深さがこれまでにない水準にあったことは明白だ。
ともかくも、先々週の第三十話において西洋の御伽噺に出てくる王子様の扮装をして極めて似合っていた翔太郎が、今朝の話ではフィリップ王子に救われた姫君のようにさえ見えてしまった…等ということは、少々不謹慎な感想であるから、くれぐれもここには書かないでおこう。
さて、今回ついに翔太郎とフィリップが心身ともに真に一体化して、「エクストリーム」への「進化」を果たしたが、その一部始終を目撃していた謎の女シュラウド(声:幸田直子)が「まさか、エクストリームにまで到達するなんて…、どこまで私の計算を超えるの?左翔太郎…」と呟いていたのは、大いに注目に値しよう。少し前には「何をしているの?來人…そいつでは何もできない」と呟いて、來人=フィリップの相棒として翔太郎では不適格であることを述べていたのとは正反対の意が、そこに表されていると読めるからだ。シュラウドが翔太郎を來人にとって「不吉な存在」であると述べて、二人の仲を引き裂き、別れさせようとしていた理由は、実は意外にも、翔太郎に能力が足りていないからではなく、逆に、己の計算を超える可能性を秘めた翔太郎に危険性を感じるからではないのだろうか?とさえ思えてくる。
最弱と思われた翔太郎が、むしろ最強である可能性。実のところ吾等視聴者は彼のことを余りにも知らされていない。以前にも述べた通り、様々な家族の話を描いているこのドラマにあって彼のみは家族の話を持たず、家族の気配さえも感じさせないのだ。
ところで、シュラウドが翔太郎の予想外の飛躍を目の当たりにして恐れおののいていたのと同じとき、秘密結社ミュージアムを支配する園咲家の居城の地下では、当主の園咲琉兵衛(寺田農)が次女の園咲若菜(飛鳥凛)と二人だけで、「エクストリーム」のメモリによる來人と地球との一体化の様子を観察して、その輝かしさに感銘を受けていた。來人の「進化」は「ミュージアムの未来」を開示するものであると捉えられていた。
ともあれ、園咲琉兵衛のこの行動は三つのことを含意するのではないだろうか。第一に、園咲琉兵衛は、來人=フィリップ(=仮面ライダーW)のことをやはり既に知っていたということ。第二に、園咲琉兵衛は、自身の後継者とすべく育成してきた長女の園咲冴子(生井亜実)には、もはやミュージアムの未来を託せないと感じているのかもしれないということ。そして第三に、善と悪とを二分しようにも、シュラウドを善の側、園咲琉兵衛を悪の側に分けることは適切ではない可能性もなくはないということだ。