仮面ライダーW(ダブル)第三十四話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第三十四話「Yの悲劇/あにいもうと」。
脚本:中島かずき。監督:石田秀範。
この物語は家族の探求の観を呈する。不破夕子という偽名を用いて、鳴海探偵事務所を訪ねてきた須藤雪絵(平田薫)が、須藤霧彦(君沢ユウキ)の妹に他ならなかったからだ。この妹の出現は、園咲家の闇を知り過ぎて殺された彼の過去を少しだけ明らかにした。この兄と妹は幼時にはともに風都市内の或る施設で過ごしていて、そして長じて立身出世を果たした兄は、研究者を志望して市外の大学へ進学した妹のために仕送りをして、大学院にまで進学させていた。兄が己の信念のために組織の闇から逃れようとして地位を捨てることを決意したとき、丁度、妹は一人前の研究者として認められるようになったところだった。彼が己自身のために全てを捨てることをも覚悟した瞬間は、家族に対する己の責任を充分に果たし得たと確信できて安堵できた瞬間でもあった。彼がその余りにも短い生においてもなお「家長」としての責任を立派に全うすることを得たのは、実に不幸中の幸いだったと云わなければならない。
…といった具合に記述してゆけば自ずから、彼等があたかも幼時に両親を亡くした二人だけの家族だったかのような気になってくる。だが、冷静に見直してみると、それを証明する要素は少なくとも劇中には出てこないようだ。なにしろ彼等二人が幼児期を「過ごした」あの施設も、一見あたかも児童養護施設(所謂孤児院)であるかのようだったが、劇中の左翔太郎(桐山漣)の台詞にもあった通り、実は「保育園」なのだ。
何とも不明瞭な描き方が採られていたのは、ことによると、視聴している子どもたちの保護者の手前、子ども向け番組としての節度を保った結果ではないだろうか?と思わなくもない。
ともあれ、こうして既に退場した一人の登場人物をめぐっても遺族が登場し、家族の事情が描かれたことによって、様々な家族を描く物語としてのこの物語の性格はさらに鮮明化した。そしてそのゆえにますます、この物語の主人公である左翔太郎の特異性が浮き彫りになる。風都で生まれ育って風都を心から愛する彼に、この街への愛情の裏付けとなるだけの幸福な幼少期があったことは、第二話における少年=翔太郎(嘉数一星)の美しく充実した顔から明らかだったと思うが、そのこと以外には彼の過去や家族を物語る要素が劇中には出てきていないはずだ。実に奇妙で興味深い。
須藤雪絵は、幼時を過ごした思い出の場所であるあの保育園を守るため、そして何よりも最愛の兄の生命を奪った園咲冴子(生井亜実)への復讐のため、イエスタデイドーパントと化して戦ったが、兄の仇からは返り討ちに遭い、逆に己が己の「昨日」の中に永遠に閉じ込められるに至り、仮面ライダーWの力によって辛うじて解放を得たものの、その結果として己自身の大切な記憶を全て喪失してしまった。「昨日」を利用した挙句、その代償として「昨日」を失ったのだ…といえば必然と肯ける。園咲家の秘密を知った者は園咲家によって抹殺されることを免れないのであるなら、知った秘密をも全て失ったことは不幸中の幸いであり得よう。だが、それにしても、美しい思い出のために生命を賭して戦っていた者が、生命だけは永らえながら思い出を失ってしまうとは、余りにも苦しい結末ではある。
ところで、フィリップ(菅田将暉)は街の高台にある公園で翔太郎と二人並んで仮面ライダーWに変身しようとしたとき、傍に立っていた鳴海亜樹子(山本ひかる)に「下がって」と云って身を案じたが、直後、変身と同時に彼の身体が抜け殻と化して倒れようとしたときには瞬時に亜樹子に抱き止められて守られていた。守られる者が同時に守る者でもあるというのは、このドラマにおいては今までも幾度も様々に描かれてきたことだ。