鹿男あをによし第十話=最終回
フジテレビ系。ドラマ「鹿男あをによし」。
原作:万城目学『鹿男あをによし』。脚本:相沢友子。音楽:佐橋俊彦。企画:中島寛朗。アソシエイトプロデュース:石原隆。プロデュース:土屋健。制作:フジテレビ&共同テレビ。第十話=最終回。演出:鈴木雅之。
この物語における最大の激動は前回で完了した。最終回の今宵は、云わば後日談だったが、実に落ち着いて、明るく晴れやかな一話だった。
中で最も含蓄に富んでいたのは、全ての「出番」を完了して奈良を去り東京へ帰ろうとする小川孝信(玉木宏)が電車の窓から見た鹿(声:山寺宏一)の佇まいだろうと思う。大昔、姫=卑弥呼に恋をした鹿は、以来、千数百年の間、その愛する女への思いを胸に抱き、その女の遺言に従って鯰を鎮めて人間を守り続けてきたのだ。小川先生はその思いを察した。鹿もまた、小川先生や彼をめぐる藤原道子(綾瀬はるか)や堀田イト(多部未華子)を好ましく思った。去り行く小川先生を見守りながら鹿は、太古の姫への思いや、今日の人々への思いを噛み締めていたに相違ない。朱雀門を背景にして、遠くを見詰めて物思いに耽るような鹿の表情がそう物語っていた。
それに先立って小川先生が鹿に最後の挨拶を告げるため来たとき、小川先生は鹿に、「俺も時々おまえのことを美しいと思うことがあるよ」と云って、鹿は「ありがとう」と礼を述べた。かつて鹿を「美しい」と云ってくれた卑弥呼。以来、鹿の愛し続けているその人。その人が亡くなって千数百年を経た今でも何時までもその人との約束を守り続ける鹿の、愛と決意は美しい。鹿の前を去る前、小川先生は最後の質問として、「寂しいか?」と訊ねた。鹿は人間の言葉で応えることはなく、ただ天空に向けて鳴き声を上げた。これもまた美しい場面だった。
他方、小治田史明(児玉清)に対する小川先生の報復も傑作だった。卑弥呼の墓所の在り処を鹿に教えてもらったが、教頭には教えない!という小川先生の意地悪な言葉。選りにも選って教頭への別れの挨拶がこれだった。小治田教頭は、己の正体を暴露するに至った小川先生との間の事件を早く忘れてしまいたかったかもしれないが、一考古学マニアとしては、小川先生のこの別れの挨拶を決して忘れることができないわけなのだ。奈良公園の鹿の群れの中で鹿煎餅を高々と掲げながら卑弥呼に使える鹿を探し出そうとする小治田教頭の哀れな姿も、なかなか見ものだった。