読書二題/格差と序列の日本史/巨大アートビジネスの裏側

読書記二題。山本博文『格差と序列の日本史』を読み終えたのは昨日。東京大学教授をつとめる著者は大人気の著作家であるから、色々な場所に書いた文章を切り貼りして本書を編んだのではなかろうか。なぜなら唐突な語が出てくる箇所があるから。例えば「すでに復権して幕政参与となっていた越前藩主の松平春嶽」(206頁)という語があるが、一体何から「復権」したのかは説明されていない。歴史に詳しい読者に対してはその説明は不要であるに相違ないが、本書が読者として想定しているのは歴史に詳しい人だけではなく、むしろ必ずしも詳しくはない人々であるように思われる。それに、今日の「格差」に対する論じ方も、あまりにも浅いのではないか。色々残念な一冊だった。
そして本日は石坂泰章『巨大アートビジネスの裏側』を一気に読み終えた。色々面白かった中でも、日本全国の美術館のコレクションを数箇所に集約してはどうか?という意見(225-226頁)が特に面白いのは、地方美術館には意外な程にそれぞれ個性豊かなコレクションがあることを踏まえ、それらの集約によって日本にもルーヴルのようなユニヴァーサル・ミュージアム(古今東西あらゆる美術文化遺産を見ることのできる巨大な「普遍美術館」)を容易に実現できるということにあるが、同時にさらに想像するに、そこで展示替を行うなら、所有権を保持する各美術館が美術館機能を存続させている場合には時々そこへ「里帰り」をさせて凱旋公開することもできるかもしれない(もちろん美術館機能を存続させない場合には所蔵品の全てを永久貸与する形をとって施設を廃止することもできる)ということもあろうか。文化資源の活用策としては妙案であるように思われる。驚いたのは、「親台湾派だった私の祖父の石坂泰三はときどき蒋介石総統を訪ねた」(208頁)という語。本書の著者の見識と発想と活力は、あの日本万国博覧会協会会長をつとめた偉大な財界人から受け継いだものだったのか。納得せざるを得ない。