タイガー&ドラゴン

TBS系ドラマ「タイガー&ドラゴン」。宮藤官九郎脚本。長瀬智也主演。第一話。通常は夜九時から一時間の放送のところ初回は十五分延長。
今宵一番の名台詞として、蕎麦店主人の辰夫(尾美としのり)が発した「贔屓にしている前座がいるもんで」を挙げなければならない。彼は既にヤクザ噺家の山崎虎児(長瀬智也)を「贔屓」にしていたのだ。無論、おでん屋台の半蔵(半海一晃)や喫茶店『よしこ』ママ(松本じゅん)もそうなのだろう。救いようもなく下手な噺家を馬鹿にしながら愛しているわけなのだ。この世界自体が楽しい。
虎児と林屋亭どん兵衛西田敏行)との間の、喫茶店『よしこ』における金の遣り取りも楽しい。落語の弟子として虎児は授業料を支払うが、借金取立て屋としては自分の支払った授業料をそのまま没収してしまうのだ。目の前にいる虎児が弟子なのか取立て屋なのか見分けられなくて混乱する師匠どん兵衛が面白い。
問題は、落語の名人であるはずの林屋亭どん兵衛と、彼の子で落語の天才であるはずの谷中竜二の噺が全然面白くないことだろうか。劇中ではそれが凄く面白いと賞賛されているのが痛い。致命傷だが、恐らくは最後まで解決されそうもない。その点、林屋亭どん太(阿部サダヲ)の方がよいと思う。
宮藤官九郎脚本の長瀬智也主演の作であるから一応は楽しめるが、昨夜「汚れた舌」という最高に笑えるドラマを見たあとであるだけに、何だか今一つに感じられるのも正直なところだ。流石の宮藤官九郎横綱審議会委員内館牧子の破壊的な威力には勝てないのか。というか、宮藤官九郎ドラマ脚本には意外に古典派的な面もあるのかもしれない。そういえばTBSにおける内館牧子ドラマでは時折オフィスクレッシェンドか特撮ヒーロー番組か大映ドラマかと見紛うような強烈な演出が見られるが、思うにそれは内館牧子脚本それ自体の内面からの要求によるものではないだろうか。