義経

NHK大河ドラマ義経」。滝沢秀明主演。第十八話。
入道前太政大臣平清盛朝臣(渡哲也)は重臣の平盛国平野忠彦)の邸宅で昔語りを楽しみ、牛若(神木隆之介)と過ごした往時を懐かしんでいた中、突然の謎の高熱に苦しみ始めた。二位尼平時子准后(松坂慶子)は正二位権大納言近衛大将春宮大夫平宗盛鶴見辰吾)を院庁へ遣わし見舞いの御幸あることを願ったが、今や「天下の大天狗」と化した後白河院平幹二朗)はそれを軽く退けた。なにしろ院の側近には妖怪の丹後局夏木マリ)のほか「鼓判官平知康草刈正雄)までも加わり、妖怪コンビから妖怪トリオへ進化していたのだ。
西八条第には従二位尼平時子准后、正二位権大納言近衛大将春宮大夫平宗盛のほか正二位左衛門督検非違使別当平時忠(大橋吾郎)、正三位参議平知盛阿部寛)、従三位左近衛権中将平重衡細川茂樹)、従三位蔵人頭右近衛権中将平維盛賀集利樹)、正四位下右近衛権中将平資盛小泉孝太郎)、さらには平時忠室領子(かとうかずこ)、重盛室経子(森口瑤子)、知盛室明子(夏川結衣)、重衡室輔子(戸田菜穂)等一門の者が勢揃いして一進一退の病状を見守ったが、不可解の高熱は入道大相国の身体を焼き尽くした。入道死去。冥途へは一人で旅立った。強いて云えば五足(北村有起哉)が平家の何者かにより無残にも殺害されたことで却って、入道大相国の供として従うことができたのかもしれない。
今宵の第十八話で一番の見所は、入道大相国の遺言の内容について二位尼平時子准后が一門の人々の前で公表した場面にある。正三位中納言平頼盛三浦浩一)をも含め一門の主な者が二位尼の見舞いのため勢揃いした席でのことだった。だが、そもそも入道が最期に遺言を告げたとき、傍には二位尼のほかには権大納言平宗盛しかいなかった。そして宗盛の知る限り遺言の後半はとても聞き取れるものではなかった。二位尼にそれを聴き取ることができたのかどうか定かではないが、恐らくは無理だったろう。しかも聴き取り得た最後の語は「夢」だったはずだ。「伊豆に流した頼朝の首級を墓前に供えよ」等と命じたとは思えない。そうであれば鎌倉の右兵衛権佐源頼朝中井貴一)を断固打倒すべきことを求めたのは恐らくは入道大相国自身ではなく二位尼平時子准后だったろう。ともあれ、この場面では松坂慶子という女優の本領が発揮された。この人は一九九七年NHK毛利元就」における杉の方や二〇〇一年NHK聖徳太子」における推古天皇など微妙に狂気をはらんだ女を演じるとき最も輝くのだと思う。
なお、入道死去の報に接した源九郎義経滝沢秀明)が一人で密かに泣いた場面での涙の流し方がとてもキレイだったことや、冒頭における野生児うつぼ(上戸彩)の義経への片想いも、忘れ難い今宵の見所だった。