キムタク月九エンジン

フジテレビ系「月九」ドラマ「エンジン」。木村拓哉=キムタク主演。井上由美子脚本。第七話。
物語世界が一気に暗転した。養護施設「風の丘」が閉園に追い込まれたのだ。周辺の市民連中が繰り広げた抗議行動の結果だが、園長の神崎猛(原田芳雄)が閉園を決意したのは単に抗議に屈したわけではない。市民連中は「風の丘」の地主に働きかけて地代を四倍に値上げさせたのだ。陰湿な、卑怯な手法だ。ここまでの怒り、憎しみがどうして生じたのか。彼ら市民連は瞬間的に生じた感情を抑制できないまま集団で相互に盛り上げ合っていて、怒ること自体に酔っているのかもしれない。そこにあるのは思考の停止だ。発端は第五話、園部徹(有岡大貴)・園部葵(佐藤未来)兄妹の秘密をめぐり徹の同級生が徹を苛めたことにあるのだから、罪は徹を苛めた同級生の側にこそあるが、善悪は転倒された形で事態は進行した。この倒錯の原因は直接には徹が秘密を守るため真相を語らなかったことにあるが、無用の拡大を見た背景には苛めた側の保護者連中の思考の停止があり、また養護施設や身寄りのない子どもたちに対する謂れのない差別がそれを加速化したのだろう。苛めた側の保護者連は周辺の住民たち多数を巻き込み「風の丘」に抗議する市民運動を組織した。そうした中で前回、第六話の最後、塩谷大輔(石田法嗣)が、樋田春海(戸田恵梨香)を傷付けた卑劣な高橋トシヤ(斉藤誠)に対し復讐の暴力を振るい、警察沙汰になったのだ。市民連のヒステリーは最高潮に達した。しかも「風の丘」の母とも云える調理師の牛久保瑛子(高島礼子)など、わざわざ過去の罪を暴かれて標的にされた。この魔女狩りのような市民運動の中で、牛久保瑛子は云わば魔女として血祭りに上げられたわけだ。
こうした異常事態にあって保育士の水越朋美(ハリウッド小雪)や模範的な保育士の鳥居元一郎(堺雅人)にできることは何もない。あるはずがない。何もなくて当たり前であって、そのことで彼らを責めるわけにはゆかない。それでも神崎次郎(木村拓哉)は彼らを責め、姉の神崎ちひろ(松下由樹)にも歯向かい、自らの父であり「風の丘」の園長でもある神崎猛とは大喧嘩をした。次郎は子どもたちと完全に同じ土俵に立つに至っているからだ。
なお、今回もキムタクによるホリ風「ちょっまてよ!」台詞があった。以前も書いたように、彼は流石にホリの物真似が上手い。天才的な名人芸だが、それを劇中に再び聞かせてくれたのは視聴者へのサーヴィスだろう。