タイガー&ドラゴン

TBS系ドラマ「タイガー&ドラゴン」。宮藤官九郎脚本。長瀬智也主演。第十話「品川心中」。
このドラマに時々露呈するカタギではない世界について違和感を抱く人々がいるだろうか。いるとすれば、そのような人々は少しは自分自身を超えることを知らなければならない。価値判断というものは常に、自分自身に問い掛けながら自分自身を超えることでしか成立しないからだ。この作品に関して云えば、カタギではない世界を自分自身のものとして引き受けるわけにはゆかないし、無論そんな必要もないだろうが、少なくともカタギではない世界における道理、「仁義」の論理性を理解できなくてはそもそも話にもならない。実際、今宵の第十話の後半においてヤクザ噺家の林屋亭小虎=山崎虎児(長瀬智也)が取った行動の全ては極めて理路整然としていて、その「仁義」の見事な論理性には一点の曇りもなかった。警察に自首して逮捕されることをも当然のこととして覚悟した上での決行であり、己の行為が社会的・法的には断じて正当化され得ないことをも自覚した上で敢えてヤクザ者として最も正当な、正義に適った道を選択したのだ。一体あれ以外のどんな選択肢があり得たろうか。そしてそうであるからこそ彼の英雄的なまでの悲劇性が深まるのだ。アリストテレスが述べるように悲劇とは大きな必然性が小さな幸福を破壊するところに成立するのであり、カタルシスとは幸福の破壊の過程における必然性の了解に他ならない。