野ブタ。をプロデュース第1話

日本テレビ土曜ドラマ野ブタ。をプロデュース」。プロデューサー河野英裕白岩玄原作。木皿泉脚本。池頼広音楽。岩本仁志演出。亀梨和也山下智久主演。第一話。夜九時から一時間の番組。初回のみ一時間半番組。
主人公、桐谷修二(亀梨和也)の三つの顔が描かれた。一つは隅田川高等学校における人気No.1アイドルとしての彼。冷静で陽気で少し意地悪で親分肌の、オシャレで威勢のよい男子。校内の誰もが知っている表の顔。もう一つは、人気者としての自身を作り出すために常に本心を隠して全てを誤魔化して嘘ばかり吐いているため時々限界を感じて苦労している必死の彼。恐らくは教頭の佐田杳子(夏木マリ)だけはそうした裏面を知っているのだろう。そして三つ目の顔は家庭にいるときの彼。母の桐谷伸子(深浦加奈子)は海外に出ているので父の桐谷悟(宇梶剛士)と弟の桐谷浩二(中島裕翔)と男三人で生活を営んでいるが、そこでの彼は、海外の母の安否を心配し、父の作る夕食の餃子を弟と奪い合うように食いながらも、弟のために裁縫にも励んでいるような、家族思いの心優しく素直な少年なのだ。
桐谷修二少年のこれら三つの顔がこのドラマの作用因に他ならない。陰気な転校生の小谷信子(堀北真希)に対して彼が強い関心を抱くのは彼の第三の顔によるだろう。彼が「野ブタ。」=信子の「プロデュース」計画を実行するにあたっては、彼の第二の顔において、彼が自身を人気アイドルに作り上げてきた経験がモノを云うに相違ない。しかるに彼のその作戦が成功するには彼の言動に影響力がなければならないかもしれない。第一の顔が土台を提供し得よう。加えて云えば、信子の新たな愛称「野ブタ。」は、「バンドー」=坂東梢(水田芙美子)率いるイジメ集団の暴力で破れてしまった信子の制服のネクタイを修復するため、桐谷修二が施した愛らしいブタ文様のアップリケに由来するが、これが既に彼の第三の顔の徴でもあるのだ。
何事にも悲観的だった小谷信子がついには桐谷修二の「プロデュース」を受け容れることを決意した。契機は三つ。奇妙な書店ゴーヨク堂の店主(忌野清志郎)が見せてくれた別世界。佐田杳子教頭の呪術の話。そして桐谷がネクタイ補修に用いた愛らしいブタ文様のアップリケ。中でゴーヨク堂店主が書店の奥に築き上げていた別世界の存在がドラマ世界を味わい深くしている。いかにも木皿泉らしいとも云えるだろうか。バンドー率いるイジメ集団に追われていた信子にとってそこがアジール一時避難所)として機能した。「全然違う世界に来たみたい」な平安な空間で安堵感を得て、気分を一新して再び現実世界へ戻ったとき、ブタのアップリケに出会ったのだ。
草野彰役の山下智久(特別出演)の演技が余りにも「池袋ウエストゲートパークIWGP)」Gボーイズのキング安藤タカシ(窪塚洋介)に酷似している点については多くの評者たちが論じているだろうからここでは特には問題化しない。云うまでもなく主題はそこにはない。物語の核は桐谷修二と「野ブタ。」=小谷信子の関係と、彼らと周囲との関係にこそあるはずだからだ。引き抜かれた柳の樹が生きていて、それを桐谷と信子の二人で見詰めた場面には不思議なまでに長閑な情趣が満ちていた。その情趣にこそ本質を見たい。

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