仮面ライダー響鬼第39話

テレビ朝日系“スーパーヒーロータイム”ドラマ「仮面ライダー響鬼」。細川茂樹主演。三十九之巻「始まりの君」。
この物語がこの先どう成り行くのか知らないし、占うつもりもないが、少なくとも現時点においては複数の「成長劇」が互いに響き合うようにして進展しつつある。面白いのはそれぞれの成長劇に個性があるところだ。能天気なトドロキ(川口真五)に対してはザンキ松田賢二)という飛び切り厳しい賢者がいるが、イブキ(渋江譲二)と天美あきら(秋山奈々)の師弟の場合、互いに補い合うことが必要だった。鬼の宗家の御曹司として何一つ迷う余地なく生きてきた優等生のイブキも、今ここで迷うことで成長しなければならなかった。他方、主人公の「少年」=安達明日夢栩原楽人)は表面上は不完全でも根本においては完全無欠な人間として設定されていると思しい。少なくとも第二十九之巻までの間にそのように描かれてきたから、覚醒の余地こそあれ成長の余地が実はない。しかるに覚醒の余地は第二十九之巻までの間に絶たれてしまってもいた。新たに彼の覚醒を促す起爆剤になり得るのは唯一人、彼の天敵である桐矢京介(D-BOYS中村優一)に他ならない。だが、ここに来て桐矢の成長劇まで生動し始めた。彼の成長劇がこの先どう成り行くのか知らないし、占うつもりもないが、少なくとも現時点において明日夢の「成長劇」なんかよりも遥かに熱気あるものであるのは間違いない。なぜなら桐矢は心身ともに余りにも弱いからだ。成長の見込みが充分あるということだ。
今回の桐矢に関して注目したいのは、彼に突き付けられた問題が、イブキや天美あきらやトドロキの直面している問題に類比的である点だ。亡き父を超えるため鬼になりたい!と云う桐矢に対し、弟子入りを志願されたヒビキ(細川茂樹)は、そんなことで鬼になれるのか?と厳しく問いかけた。確かに志望の動機は適当ではないし、現状の彼の心身両面の弱さが鬼として致命的に不適当であるのは明白だ。合宿所での前夜、童子(村田充)と姫(芦名星)の出現に怯えた彼は物陰に隠れて震えていたし、今朝も葛飾柴又の甘味処「たちばな」で偶々地下の秘密基地の暗闇に迷い込んだとき、「暗いよ!怖いよ!ママア!」と悲鳴を上げていた。そんなことで鬼になれるのか?というのは当然あるべき問いだが、しかるに不図考えれば天美あきらやイブキやトドロキの直面している問題がまさしく同じことではないか。鬼になる資格はあるのか?弟子を取る資格はあるのか?ザンキに殴られる資格はあるのか?鬼であれ師であれ弟子であれ何か特別な者であるに足る者であるのか?相応しい者であるのか?という問題がここ数回のドラマを支配していて、そして主人公の天敵である桐矢少年は彼らの問題を共有しつつあるのだ。
桐矢少年が取り組まなければならない問題とは、実は変身ヒーローに憧れる少年たちが実人生でも将来に向けて取り組まなければならない問題ではないのだろうか。主人公であり視聴者の象徴でもあるはずの「少年」≠明日夢がそうした課題を免除されてしまっているのが実に惜しい。