富豪刑事デラックス第二話

テレビ朝日系(ABC朝日放送制作)ドラマ「富豪刑事デラックス」。筒井康隆原作(新潮文庫)。蒔田光治脚本。辻陽音楽。主題歌=オオゼキタク「トライアングルライフ」。深沢義啓(ABC朝日放送)&桑田潔テレビ朝日)&蒔田光治東宝)&太田雅晴(5年D組)プロデュース。製作=ABC&テレビ朝日東宝長江俊和演出。第二回。
旧伯爵西村家の当主、西村礼次郎(江守徹)は何事にも本物志向であることを自称しながらその実は殆ど本物を知らない。そのことを冷徹にも暴いてみせた神戸喜久右衛門(夏八木勲)。宝石泥棒の伯爵と云えばジョン・ワトスン博士の記録した「シャーロック・ホームズ聖典」の一つ「マザランの宝石」事件の犯人だった社交界の花形ネグレット・シルヴィアスを想起するが、本件の西村礼次郎の場合、周囲から「伯爵」と呼ばれてはいても実際には旧伯爵家当主でしかなく、貴族・華族の制の既に存在しない今日の日本国における自称「伯爵」でしかない。悪人ではあるが、没落貴族の悲哀を湛えている。自決の直前、船内のピアノでモーツァルトのピアノ協奏曲を奏で神戸美和子(深田恭子)に聴かせたのは、神戸喜久右衛門の冷笑に対する応えとして、己の本物志向が本当は本物であったことを辛うじて証明するものだったのだ。