富豪刑事デラックス第四話

テレビ朝日系(ABC朝日放送制作)ドラマ「富豪刑事デラックス」。筒井康隆原作(新潮文庫)。蒔田光治脚本。辻陽音楽。主題歌=オオゼキタク「トライアングルライフ」。深沢義啓(ABC朝日放送)&桑田潔テレビ朝日)&蒔田光治東宝)&太田雅晴(5年D組)プロデュース。製作=ABC&テレビ朝日東宝。池添博演出。第四話。
久々に「富豪刑事」らしい無駄なスケールの大きさ。この馬鹿馬鹿しくも面白い話をどうして第一話に持って来なかったのか?と今さらながら惜しまれる程に快調だった。なにしろ敵も味方もそれぞれに話が大きかった。
今回の敵は絶対に当る占い師、タロット重田(秋本奈緒美)。この女の占いが当るのは、何万人もの信者たちが相互に幇助し合う打算の協働組合を組織することに成功したからだった。信者たちは己の願望が占い師によって肯定され、その占いが当って己の願望が実現することを期待し、故に「情けは人の為ならず」の論理に従い、他人の占いが当るよう全面的に協力する代わりに、自分の占いが当るよう他人が力を合わせてくれることをも待望するのだ。こうして信者同士で皆で協力して占い師の言が全て当るよう企てる組織が一度できれば、あとは占い師も安心してどんな占いの言でも発することができる。何を予言しても信者たちが必死になって実現してくれるのだからだ。西田文恵(筒井真理子)も信者の一人。そして大手スーパーマーケットのチェインの社長、片山隆三(神山繁)はタロット重田のそうした組織のカラクリを知悉した共謀者だった。対する神戸美和子(深田恭子)が全てを神戸喜久右衛門(夏八木勲)の超巨大な財力で代用したのは云うまでもない。人気アイドル北山美紀(佐藤寛子)の将来について二人の占い師が占いの力を競い合う際にも、タロット重田は、北山の交際相手が眼鏡デザイナーを志してはいるものの未だ世に知られない貧しく冴えない菊池裕二(坂本真)であることを予め調べておいた上で、冴えない男と結婚して苦労するだろうことを予言したのに対し、美和子は、大富豪と結婚して世界中から祝福されるだろうことを予言した上で、交際相手のデザインした眼鏡を世界中に大々的に売り出し大成功させて世界でも屈指の名士に仕立て上げ、然るのちに結婚させたのだ。ここにおいて二人の占い師におけるインチキの方向性が正反対であることが強調されていることも見落とせない。タロット重田は、邪魔者を信者たち皆で事故に見せかけて殺害する等、人海戦術で不幸を作り出すが、美和子の場合、財力で幸福を作り出すのだからだ。
当然、タロット重田と片山隆三の犯罪に関しては何万人もの共犯者がいるわけで、まさか警察としても彼ら共犯者の全てを逮捕するわけにはゆかない。その意味で本件の解決は真の解決にはなり得ない。何とも後味の悪い苦い結末でしかあり得ないわけだが、物語は、神戸家の運転手、伊東隆行(虎爪光揮)が美和子御嬢様を迎えに来て美和子も勝手に退場することで軽く誤魔化してみせるのだ。馬鹿馬鹿しくも唯一最善の終わり方と云ってよい。