トップキャスター第十話

フジテレビ月九ドラマ「トップキャスター」。坂元裕二脚本。佐藤直紀音楽。主題歌=Sowelu「Dear friend」。現王園佳正プロデュース。フジテレビドラマ制作センター制作。平野眞演出。第十話。
報道会社は事実を偽装してよいのか?という問題を取り上げたのが前回放送分だったが、今回はさらに、報道会社は事実を隠蔽してよいのか?という問題を取り上げた。もちろん隠蔽してよいわけがない。しかし難しいのは、隠蔽が自社の利益を守る場合だ。報道会社は自社を害してでも事実を明るみに出さなければならないのか?というのが今回の問題の本質なのだ。もちろん理屈では答えは明白。しかし会社で働くことは個々の会社員にとっては単に生活の資を得る手段に過ぎないのかもしれないということが問題を難しくしている。人が仕事のみに生きるわけではなく、仕事のみが人を幸福にするわけでもない限り、これは決して軽視できる事柄ではないはずだ。
石場小吉(生瀬勝久)が二つの御伽噺を披露した。「ちゃっかり鼠」と「おひとよし狐」。愛娘に話し聞かせた話であると云う。前者は「生きるためには嘘を吐け!」と教え、後者は「どんなことがあっても正直に生きよ!」と教える。何れが正しいだろうか。もちろん子供に対しては後者の正しさを伝えることが不可欠だろう。とはいえ前者も、「嘘を付いてでも生きよ!」との意に読み換えるなら決して間違った教えではないことが解るだろう。石場小吉の御伽噺は二つとも正しいのだと思う。何れの立場もそれぞれ正しいことを知った上で悩み抜いた末に彼は苦渋の決断を下した。その契機を生じたのは皮肉にも疑惑の当事者、CNBテレビ会長の結城英雄(伊武雅刀)から彼への昇格人事の耳打ちだった。結城英雄は石場小吉の普段からの事勿れ主義を賞賛し、今回の事件でも隠蔽に加担することを約束させた上で、褒美として報道局長に昇進させることを約束したのだ。隠蔽に反対する反逆の廉で左遷されることに決した柴田勝俊(児玉清)の後任としてだった。事実を隠蔽してでも自社の利益を守ってこそ報道会社の幹部に相応しい!と結城英雄は言い放ったが、この言、この栄光を、石場小吉は屈辱と受け取った。彼は一時の利益よりも生涯の正義と名誉を守るため「おひとよし狐」であることを選んだ。何時も生意気な伊賀俊平(松田翔太)が初めて敬語で接したのも肯ける。
なお、椿木春香(天海祐希)と結城雅人(谷原章介)が昔話を語り合った場所は上野恩賜公園にある東京国立博物館の本館前の噴水の畔だった。