仮面ライダーカブト第二十三話

テレビ朝日系。“スーパーヒーロータイム”「仮面ライダーカブト」。主演:水嶋ヒロ佐藤祐基。第二十三話。
今朝の第二十三話を味わい深くしてくれる鍵概念として「nobles oblige」を考えたい。理解にあたり鍵になるのは、劇中でのこの語の用法が誤りに満ちているかに思えることだ。とはいえ中には確かに劇中一人物の誤用の例もあるが、他の人物による主な用例は、それ自体は誤用ではないにもかかわらず劇中での当の誤用を惹起し、同時に視聴者にも誤解を与えてそれへの違和感を惹起しつつも、実はその裏面に意外の思いをも籠めていたのではないだろうか?と解したいのだ。この吾が大胆な仮説を弁証するための露頭は、大人気のラーメン屋台に興味を持った英国貴族嫡流の「おぼっちゃまくん」こと神代剣山本裕典)に対し、彼の家に代々仕える執事=通称「じいや」(梅野泰靖)が「nobles obligeをお忘れですか?」と絶叫した場面に他ならない。その語の意味は何だろうか?貴族ディスカビル家の貴公子がラーメンのような庶民の料理に興味を持ってはなりませぬ!という意味だろうか?どうやら神代剣はそのような意味に取ってしまったようだが、本意はそうではなかったと思われる。むしろ、庶民のささやかな楽しみを邪魔してはなりませぬ!というのが「じいや」の真意だったろうと解せるからだ。神代剣の普段の言動から想像するなら、屋台のわずかな客席の順番待ちをする大勢の客たちの大行列を彼が無視するだろうことは容易に予想できたろうし、箸を用いずフォーク等を用いて時間をかけて食うことで他の客たちの待ち時間をさらに長くするだろうことも予想できたろう。大行列のできる店と大行列の客たちにとって甚だ邪魔で迷惑な事態だ。庶民の心をも知る「じいや」はそのことを心配したに相違ない。だが、それだけではなかったように思う。なぜならこの屋台はもともと「じいや」自身の店で、しかも今は天道総司水嶋ヒロ)が引き継いで経営している店だからだ。ZECT幹部の三島正人(弓削智久)によってワーム退治業務の委託契約を一方的に打ち切られたことで収入源を失った神代家の家計を少しでも助けるため「じいや」が密かにラーメン屋台を開店したところ、この働き者の老人を一流の料理人として崇拝する天道は、「人類の宝にこんなことをさせるわけにはゆかない」と云って、料理の道の「修業」をも兼ねて代わりに引き受けることにしたのだ。もし神代剣がこの屋台に行けば天道に余計な喧嘩を売ることになりかねない。天道の熱く篤い厚意を無にすることにもなりかねない。高潔なる人格者の天道殿に対してそんな無礼を働くようなことがあってはならぬ!という思いが「じいや」にあったのではないだろうか。換言するなら「じいや」は天道の精神と行動に「nobles oblige」を見出し、神代剣にもそれを尊重して欲しかったのではないだろうか。今朝の第二十三話の最後、神代剣の挑発にも冷静に優雅に堂々対応した天道総司の高貴な振る舞いに騎士道の精神、「nobles oblige」を感じ取って感服の涙を流していた「じいや」の姿がその傍証であり得るだろう。